Abstract : |
非穿通性胸部外傷による冠状動脈損傷の急性期手術救命例を経験した. 交通事故後ショック状態が遷延し, 胸部CTで心タンポナーデと診断され緊急手術を行った. 胸骨正中切開で心嚢内に達したが, 胸骨は骨折し, 心嚢内には500mlの血液及び凝血塊が貯留していた. 心タンポナーデの原因は胸骨骨折部に一致した左冠状動脈前下行枝末梢(seg. 8)の損傷であり, これを結紮止血した. 術後心電図変化や血清酵素の上昇がみられたが, 不整脈や心機能の低下はみられず順調に軽快した. 他家の報告例を検討しても左冠状動脈本幹(seg. 5)及び各冠状動脈起始部(seg. 1, 6, 11)よりも末梢の損傷なら結紮可能と思われる. 非穿通性胸部外傷による冠状動脈損傷の救命例の報告はわれわれの調べ得た限りでは見られないので報告した. 非穿通性胸部外傷による冠状動脈損傷の1例につき文献的考察を加え報告する. 「症例」症例:71歳, 男性. 主訴:前胸部痛. 既往歴:10年前より完全右脚ブロック. 現病歴:1992年9月14日, 乗用車助手席乗車中, 停車中の乗用車に衝突し, ダッシュボードに前胸部を強打した. 他院に緊急入院し内科的治療を行うも, ショック状態の改善が得られず, 胸部CTにより心タンポナーデと診断され本院へ紹介された. |