Abstract : |
Kirklin1型心室中隔欠損症(1型VSD)術後に発生する顕性及び不顕性溶血の発生機序およびその防止方法について検討した. 対象は1990年から1992年の間に当科にて施行した1型VSD34例である. このうち1992年12月よりシングルベロア-ダクロンパッチに自己心膜を裏打ちし, 心膜を右室側に向かうようにしてVSDを閉鎖した17例をA群, 従来のダブルベロア-ダクロンパッチにて閉鎖した17例をB群として検討した. 年齢, 体重, 術前のQp/Qs, Pp/Ps, Rp/Rs, LDH, 総ビリルビン値に両群間に有意差を認めなかった. 連続波ドップラーによる術前の右室流出路(RVOT)血流速度はA群:1.7±0.4m/sec, B群:1.8±1.0m/secと差はなく, またVSD閉鎖に用いたパッチの大きさも差を認めなかった. 術後の溶血状態を人工心肺の影響がほぼ消失したと考えられる術翌日早朝のLDH, 総ビリルビン値, 溶血尿の有無で判定した. LDHはA群:812±205IU/L, B群:1,098±427IU/L(p<0.05)と有意にA群で低値を示した. 総ビリルビン値もA群で低い傾向にあり, また溶血尿はA群では発生しなかったのに対しB群では2例12%に認め, 心膜裏打ちパッチによる溶血防止効果は明らかであった. また術後のRVOT血流速度には差はなかった. カラードップラーエコーによるパッチ周辺の乱流を0度から3度に分類すると, 乱流の発生頻度はA群73%, B群83%で差はなかったが, B群に2度, 3度を多く認めた. 3度の乱流を認めた症例のLDH値を両群間で比較するとA群(n=3)783±157IU/L, B群(n=4)1,543±558IU/L(p<0.05)と有意にB群で高値を示し, B群の2例のみ溶血尿を認めた. A群では乱流による溶血は認めなかった. すなわちダクロン使用では乱流が溶血の原因に関与するのに対し, 心膜を裏打ちすれば乱流が発生しても溶血は発生しにくいことが判明した. この方法で1型VSD術後の溶血がほぼ完全に防止し得た. (日本胸部外科学会雑誌1994;42:1043-1047) |