Abstract : |
脳保護法の改善に伴い弓部大動脈置換術の成績も良好なものとなってきた. 1986年1月から1995年9月の期間に, 選択的脳灌流法を用い弓部大動脈全置換を施行した151例中, 大動脈解離症例を対象として, 胸骨正中切開下に下行大動脈中枢側置換を同時に施行した拡大再建群(n=18)と非拡大再建群(n=66)を比較し拡大再建術の有用性について検討した. 拡大再建群(以下拡大群)及び非拡大再建群(以下非拡大群)の早期死亡率はそれぞれ5.6%, 16.7%であり, 拡大群が非拡大群に比べて低かったが, 統計的有意差はなかった. 拡大群が低値であった理由としては, 拡大再建術を積極的に施行し始めたのが1993年以降の最近の症例が多かったためと考えられた. また拡大再建により, 出血量の増加や術後呼吸不全などが危惧されたが, 平均術中輸血量及び術後12時間後の呼吸係数に有意差を認めなかった. また拡大再建による人工心肺時間の延長あるいは術後合併症の増加は認めなかった. 遠隔成績として, 拡大群及び非拡大群の生存率は1年87%vs 72%, 3年87%vs 69%であり, 両群間に有意差はなかった. また広範囲大動脈解離例における術後残存解離腔の早期血栓閉塞率はそれぞれ56%vs 33%と拡大群が非拡大群に比べ高値であったが, 有意差は認めなかった. 以上のごとく, 弓部大動脈全置換術における胸骨正中切開下の下行大動脈中枢側への拡大再建術は, 術後早期成績を低下させず, 手術の根治性を高め患者の遠隔期quality of lifeを良好なものとする可能性が示唆された. |