アブストラクト(17巻1号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 移植肺腫瘍の全身転移経路に関する実験的研究
Subtitle : 原著
Authors : 近藤隆昭, 井上権治
Authors(kana) :
Organization : 徳島大学医学部外科学第2講座
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 17
Number : 1
Page : 4-19
Year/Month : 1969 / 1
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 「第I章 緒言」 肺癌に限らずすべての悪性腫瘍の予後を左右する最も大きな因子は腫瘍の局所再発と転移であり, 外科的に根治手術を行ない得たと思われた患者がしばしば遠隔転移を来して死亡することを考える時, 転移がいかに大きな因子であるかが理解される. 肺癌の転移には普通リンパ行性, 血行性, 管内性, 接触性などの形式が考えられる. これらの中で頻度その他の理由から外科的にとくに問題となつているリンパ行性, 血行性転移を阻止し得たならば肺癌根治手術成績の飛躍的向上を期待できるのはいうまでもない. この中でも血行性転移の比重はきわめて大きく, 肺癌根治手術例でも術後癌死の60~70%が血行性転移による死亡である. 血行性転移がどのような場合に起る可能性が強いか, また流血中の腫瘍細胞出現機序および着床能力との関係などについては多数の報告がみられ. 例えばCollier1), Nohl2)らは, 肺癌切除標本の病理組織学的な検討により, 癌の血管侵襲が高率に認められると述べ, さらにCollier1)は血管侵襲と予後との間に密接な関係があると指摘している. また末舛3)らは77例の切除肺について血管侵襲と予後との関係をしらべてその関連性を指摘している. 一方, 腫瘤を完全に切除してもリンパ節転移の残存したものでは早晩遠隔転移を来して死亡する例がほとんどであり, リンパ行性転移もまた重要な問題である. いずれにしても, 肺に原発した腫瘍がいかなる経路を通つて遠隔転移を来すのかということは外科的にきわめて重要な問題であり, これらの点に関しては病理組織学的に田内4), 末舛5)らの研究がある. しかしながら臨床例での検討は, 剖検例にしろ切除例にしろ, 悪性腫瘍の経過中における一時期の状態に関する観察の集積からの判断であり, その結論の万全を必ずしも期しがたい憾みがある. したがつて動物実験により, 悪性腫瘍の全経過を通じて流血中腫瘍細胞の出現と転移との関係, さらに腫瘍細胞がいかなる経路を通つて遠隔転移を来すのかということを経日的に観察することは意義深いことと考える. 著者は実験的にこの問題を追求するために, Brown-Pearce家兎腫瘍を用いて家兎肺の中枢部(主気管支粘膜下), 中間部(区域または亜区域気管支粘膜下), 末梢部(肺胸膜下)の3カ所に移植気管支肺腫瘍を作成し, この3群につきそれぞれ末梢血, 肺動脈血, 肺静脈血, 左右胸部リンパ本幹*よりの腫瘍細胞検索と全身転移状況とを経日的に観察し, 流血中の腫瘍細胞出現と転移との関係, および全身転移経路について検討を加え, 興味ある知見を得たので報告する.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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