アブストラクト(17巻1号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 流体素子の補助循環への応用 自己制御性を中心にして
Subtitle : 特掲
Authors : 三浦勇, 榊原仟
Authors(kana) :
Organization : 東京女子医科大学外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 17
Number : 1
Page : 20-38
Year/Month : 1969 / 1
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 「第1章 緒言」 機能を喪失した心臓の交換は, 言うまでもなく心臓病にたいする究極の治療法である. 機械を用いてこの目標に到達するか, 心臓移植によるか, すでに心臓外科の黎明期に2つの研究がスタートを切つた. まず機械による方法が有望視された. 補助循環法の研究は, Clauss1)の卓抜なアイデアに基づくCounterpulsationを契機に, にわかに活気を呈し, Debakey, Liotta2)3), Kantrowitz4)5)らの副心臓の思想にまで発展し, あいついで臨床応用が試みられた. これと並行して移植人工心臓の研究が, 目標と構想の大きさのゆえに一躍脚光を沿びたのである. 数年に亘る努力のすえ, 多くの困難を克服し6)7), Kolff, Akutsuらは, 空気駆動式のサック型人工心臓をコンピューターで制御することによつて1964年, ついに心臓を除去した仔牛を27時間生存させることに成功し8), 1970年代には臨床応用も可能であろうと喧伝された. しかし結局はこれが限度であつた. 補助循環は予期した成果を上げるに至らず, 人工心臓はきわめて複雑な機械と化し, 本来の目的からあまりにも遠ざかつてしまつた観がある. この間南アの第1例に端を発する心臓移植の成功例があいついで報告され, 世界の耳目を聳動した. もとより拒否反応の対策は不完全であつて, 移植手技上の問題を解決したにすぎない. 時期尚早の誹りもある. いま一度厳しい反省が加えられるであろうことは予測に難くない. しかしながら, たとえ短期間であれ, 移植された心臓が人体において確実に機能を営なみうることを立証した意義は大きい. その意味で移植はいまや機械を用いる方法を完全にぬき去つて最終目標に大きく接近したのである. しかし, 心臓移植が今後免疫という最大の難関を克服しえても, 移植心の入手難を現実にひかえている以上(あえて豚の心臓に循環機能を託すればもはやhuman beingではありえない)究極には機械による心臓の置換が主流を占めるに至るであろう. さしあたつては移植前後の心機能を完全に維持するために補助心臓の開発を急がねばならないのである. ところで人工心臓の実現を阻む問題は何であろうか. ポータブルエネルギー源の開発は別にしても, 凝血の対策と制御法の確立が急務である. それにもまして重要なのは生体と機械とのMatchingの問題である. 従来, この分野における研究の主題は循環系のSimulationであつた. 生体循環系の構造機能を唯一妥当のものであるとみなし, 機械のなかにこれらを再現せんとして最大の努力が払われてきた. 科学の急速な進歩を考えるとき, 高性能超小型のコンピユータによつて制御される人工心臓が実現しない理由はない. しかしながら, たとえSimulationが完壁であつても生体側に未知のパラメータが少なくない以上, 機械は所詮機械であつて有機物たりえないのである. 要するに生体がどの程度, 機械と妥協するかが問題であつて, 複雑精緻な機械であることのみが優秀な人工心臓の条件ではない. こう考えると, この方法は決して最良の道であるとは言い難いのである. 少なくとも最短距離ではない. むしろ人工心臓実現えの近道は, 生体循環系の特殊性を深く洞察し, 人工心臓のための画期的な技術を開発するにあると言えよう. 未知な部分はそのまま残しても, 結果としてはうまく循環系にマッチするような新しいポンプの構造や制御の方法を考案する必要がある. それが全体の機構を簡略化し, Organizeするものであればさらに優れているわけである. このような理念に基づいて, 筆者は工学上の新しいエレメントであり, そして無限の可能性を秘匿すると考えられる流体素子に着目し, Fluidicsの技術を人工心臓に導入せんとした. 循環系と流体素子, この2つの流体系の間に何らかの符合があり, そこから新しい用途をみいだしうるかも知れないと期待したのである. 流体素子の人工心臓への応用は, 1962年, Wood Ward9)10), Nunn11), らによつて始めて試みられている. その後, Dalton12), Nose13), 渥美14)らによつて追試が行なわれた. 彼らは麾粍しない, そして制御しやすいスイッチとして流体素子を選び, 充分にその目的を達したのである. 破損しないこと, 言うまでもなくこれは人工心臓の第1の条件であり, 流体素子はその意味で理想的な駆動素子であるが, 筆者はさらに流体素子が, 生体を含む制御系において自己制御をなしうる優秀な特性を有する事実を発見した15)16). すなわち流体素子を空気駆動系に用いてバイパス法やCounterpulsationを行なえば, ポンプそのものが心室内圧の変動や, 静脈帰流量の変化など, 生体からのフィードバック情報を直接とらえて自動的に最良の拍動状態を維持する効果が判明したのである. 流体素子を介してポンプは心拍に同調し, 心臓への還流量が増加すれば自動的に大きな振巾で動くと言う興味ある動作を行なつたのである. 心拍との同期現象, 流量の自動調節性, これら2つの特性にたいして筆者は自己制御性(Self-organization)と言う呼称を与えた. 本稿は流体素子の自己制御性に関するレポートである.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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