Abstract : |
「I 緒言」 合成代用血管の開発, 体外循環法の確立に伴つて, 血管外科は近年飛躍的に進歩し, 動脈系血行路再建は細小動脈などの若干の例を除いては, ほぼ確立されたの感があるが, 静脈系血行路再建に関しては, 未だ満足すべき成績がえられず未解決の点が多い. この静脈系血行路再建の困難性は, 静脈系の特異的性状である低い静脈内圧, 緩徐な血流速度, 菲薄な静脈壁の性状4)18)29), および適切な移植材料の欠如の諸因子に誘因される早期の血栓形成による閉塞, および晩期にみられる周囲組織の瘢痕化による閉塞を生じ易いことにある47)54)65)66). これらの難点を克服するため, 移植材料, 方法その他の面で種々の対策, 手段が試みられているが未だ確実なものは見出されていない5)6)8)9)13)18)22)25)27)31)40)43)44)45). 著者は, この静脈移植の最大の問題点である早期血栓形成を防止すべく, 界面活性物質の利用を考慮し, 生体内に最も広く分布している燐脂質としてのLecithinsが界面活性作用を有することに着目し, 本物質の生合成過程に於る前駆物質であるCytidine-Diphosphate Choline(Nicholine(R))(以下, C.D.P.Cholineと略す)を代用血管下大静脈移植時に使用し, 血清自体の表面活性作用の増強により, 移植後3日, 5日, 1週間, 2週間, 3週間の各時点において, 80%以上の高率で移植代用血管の開存を認めた. かくの如き, 特殊な表面活性現象の静脈移植への応用に関する内外の文献は見当らず, 静脈再建に1つの方向を示唆するものと思われるのでここに報告する. |