Abstract : |
「I. 緒言」 肺癌症例の予後をあらかじめ正しく判定することができるならば, 症例の治療方針を定める上にどれほど有用な指標を与えうるか測り知れない. このような意図のもとに癌の発育進展のあり方や転移形成など, 悪性度に関する要因を主として病理組織学的に検討し, 予後判定に役立てようとする試みがいくつかなされてきた. すなわち, 滝沢1), 小林2), 今井3)らの報告にみるごとく, 癌実質の分化度, 基質の変性度から肺癌の悪性度を評価, 分類しようとする試みである. しかし, このような分類においても実際の臨床経過と必ずしも一致しない場合が多く, 予後の正確な判定ということには今日なお多くの問題点を残しているごとく思える. 一方, 近年診断技術の進歩伴なつて悪性腫瘍の診断は臨床的にも病理学的にも早期かつ小型のうちに可能となつた. 細胞診断学の進歩もその一翼を担うものであつて, 子宮癌, 胃癌に関しては, すでに上皮内癌と浸潤癌の鑑別4)5)6)あるいは早期癌と進行癌の鑑別7)も細胞診の段階で可能となりつつある現状である. また, 腫瘍の組織異型度と細胞異型度は必ずしも平行するものではなく, 太田8)も述べているごとく, 腫瘍が小さいほど組織学的初期癌の判定はむしろ細胞学的異型度の認識に負うところが少なくないとされている. このように細胞診の診断的評価は近年大きく推進せしめられつつあるが, 著者はさらにこれを一歩進めて, 細胞レベルにおいて腫瘍そのものの悪性度を推定することも可能ではないかと考えるに至つた. もちろんそこには, ある程度の判断の飛躍と危険を伴うが, このような研究も1つの試みとして許されてよかろうと思う. 以上の見地から, 著者は, 原発性肺癌の手術症例から得た肺癌細胞を電顕的に観察し, 細胞の微細構造の特徴にもとづいて肺癌を分類し, かつ分化度を加味した異型度区分を行ない, 組織レベルでの異型度および肺門縦隔リンパ節転移の有無と対比し, 予後との関係を検討した. また同一症例の肺癌細胞を光顕的にも観察し, 電顕像と比較対比して, 光顕的細胞レベルにおいて肺癌の予後推定が可能か否かについての検討を加えた結果, 若干の知見を得たので報告する. |