Abstract : |
「I 序言」 虚血性心疾患による死亡は, 死因統計第三位の心臓病による死亡の中の大きな部分をしめている. しかし最近Coronary Care Unit(C.C.U.)の発達にともなつて内科的治療法もかなりの進歩を示したが, 死亡率を大幅に減らすにはいたつていない. 一方外科的治療法も古くから行なわれ, 非常に多くの方法が考案されているにもかかわらず決定的な方法をみるにいたつていない. その中で現在一応普及している方法としてVineberg手術がある. これは内胸動脈を心筋内に埋め込む方法であるが, その効果と安全性からわが国においても次第に行なわれるようになつてきた1). しかし内胸動脈と冠動脈の間の吻合の新生を期待するよりは, 本来の冠循環をそのまま利用する方が, より生理的, 理想的な血流が得られることは明白であろう. この意味で冠動脈に直接外科的操作を加えて, 冠動脈の狭窄や閉塞部位を修復したり, 冠動脈と他の動脈とを吻合したりして, 本来の冠循環を温存しようとする方法は“冠動脈外科の直接法”と呼ばれているが, 1940年Murray2)が実験的にこれを行なつて以来いろいろの方法が考案されている. 臨床的ににも現在までに200例以上行なわれているといわれている3). しかしこの方法は成功すれば劇的な効果を示す反面, 手術手技が困難であり危険率も高いので, まだ一般的な方法とはいえない. われわれは今回冠動脈外科直接法を簡単かつ短時間で行なうことができて, しかも冠動脈に切開を加えないで行なうことのできる新しい血栓摘出用装置(Thrombectomを考案した. これはカテーテル状に作られたラセン状搬送体である. これを冠動脈口から挿入して, 冠動脈内の血栓を破壊粉砕して同時に吸引排出することを可能にした装置である(図1). このThrombectomを用いて, 実験的に作つた股動脈内血栓を摘出して, その効果および安全性を確認した上で, 冠動脈内血栓の摘出を行なつたので報告する. |