アブストラクト(17巻5号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 実験的肺動脈塞栓症の換気力学的研究
Subtitle : 原著
Authors : 仲地紀仁, 高橋雅俊
Authors(kana) :
Organization : 東京医科大学外科教室
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 17
Number : 5
Page : 616-628
Year/Month : 1969 / 5
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 「第1章 緒言ならびに文献的考察」 肺塞栓症の発生は本邦においては比較的少ないが, 欧米ではDeBakey(1944)1)らの報告で剖検の2.8%にみられ, また全手術例の0.1~0.37%の頻度に肺塞栓症の手術が施行されたことを報告している. Takats2)は512剖検例で, 25.7%と高頻度に肺塞栓症を見い出し, とくに高年層に発生率が高い. 一方, 本邦における上田(1964)3)らの発表では過去10年間に本症の剖検総数に対する百分率は本邦では0.24から2.14%に漸増し, 同内科教室の統計では311例の剖検総数の6.1%にあたり, 基礎疾患として弁膜症, 悪性腫瘍, 血栓性静脈炎, その他を列挙している. これら肺塞栓症に対する治療としては観血的には体外循環を使用しての血栓剔出術(embolectomy), 下大静脈結紮術, また非観血的にはHeparinなどの抗凝血剤の投与が行なわれている8)9). しかしmassive pulmonary embolismでは急激に死の転帰をとるものがあり, 本症に対する病態生理的研究が望まれる. 実験的肺塞栓の作成に関しては臨床に類似した状態を得ることは容易でなく, 本実験の一大障壁をなしている. 本症に対する文献的背景を考察するに, 肺塞栓の作成法は1962年以前においては固体粉末を流出させるものが多く, 中村19), 石戸谷29), 三村21), 須田22)らは石松子を白石25)26)はpolyvinyl chlorid. をJust-Viera10)11). は硫酸マグネシウムなどを塞栓子としているが, 臨床のそれとは必ずしも類似するものではなかつた. Williams50)(1956)はガラス粉末を塞栓子として肺塞栓犬を作成して, 本栓子をくり返し流出させると右心不全を併発し右室, 肺動脈, 股動脈の圧が降下し, ついには心拍出量が減少して動脈血酸素飽和度の低下を来たすという. また肺塞栓症における一時的な肺動脈圧上昇は体血圧の反射的減少に原因を求めるParin51)(1947)の報告もあるが, Schweitzer52)は反対の意見を出している. Griffin(1951)42)はmassive pulmonary embolismの死因の多くは肺動脈の血流閉塞による機械的因子をあげている. Boyer(1944)43)は肺塞栓によるbronchospasmの機構を重視しているが, 同様な報告がEhrner44), Langfel45), Heilman46), Colp47)にみられる. Gurewich9)(1963)は肺塞栓に伴う悪因子の原因が特殊物質の遊出(セロトニン様物質)によるもので本症実験犬にHeparinを投与するとpulmonary resistanceの上昇はみられなかつたことを報告している. また肺塞栓症の肺循環障害による肺胞ガス換気異常に関してSeveringhaus48)は肺毛細管の血流障害による肺胞死腔容量をRobin37)49)は肺胞, 肺毛細管, PCO2較差を検討している. 本症に対する酸素呼吸の効果では, Stein34)(1962)は著者と同様の方法で自家血栓を流出させ, 99.6%酸素の調節呼吸を行なつても動脈血酸素飽和度ならびに心拍出量は減少し, 動脈血と肺胞PCO2較差(arterial-alveolar PCO2 difference)は増加して, lung complianceと肺動静脈短絡の間に関係ないこと, 塞栓発生後肺容量は減少しないなど興味ある結論を報告している. 最近においてはJust-Viera16)11)30)38)らが肺塞栓症犬に対するhyperbaricの応用, 循環動態など一連の研究を報告しているが, 本邦における肺塞栓の研究は極めて少ない. 以上の考察から筆者は犬の動物実験において従来の肺塞栓症の作成法とは異る方法で病態生理学的に類似する肺塞栓犬の作成について実験した. この実験犬については主として換気力学的面を中心として肺機能の検索ならびに血行動態の変動について追求した. また肺塞栓後簡単に利用しうるrespiratorで100%酸素陽圧調節呼吸(intermittend Positive Pressure breathing)の効果をあわせて検討し2・3の知見をえたので報告する.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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