アブストラクト(17巻6号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 左冠動脈単独灌流の実験的研究ならびに臨床応用
Subtitle : 特別掲載
Authors : 小船井良夫, 榊原仟
Authors(kana) :
Organization : 東京女子医科大学外科学教室
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 17
Number : 6
Page : 695-709
Year/Month : 1969 / 6
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 「第1章 緒言」 冠潅流法は, 直視下心臓内手術時の血流遮断許容時間延長方法の1つとして, 1955年Shumway1)によつてはじめて用いられて以来, 数多くの報告がなされている2)~14). これらは低体温法に冠潅流法を併用して血流遮断時間の延長を意図したもの1)~5)8)11)12)薬物による心拍停止法に冠潅流を併用し心筋保護を目的としたもの9), または人工心肺による体外循環を行ない, かつ低温血液による, いわゆる選択的冠潅流冷却法6)7)10)13)14)としての冠潅流法で, その潅流方法は, いずれも大動脈流出路を遮断してその起始部に針を刺入して潅流を行なつている. したがつて, これらの冠潅流法は低体温法および人工心肺による体外循環法のいわば補助的手段に過ぎなかつた. しかしその後, 人工心肺装置の改良による体外循環法の進歩とともに, 補助的手段としての冠潅流法は, その必要性が薄れてきているのが現状である. 一方, 心筋保護を目的とする積極的手段としての冠潅流法の研究は, 大動脈弁膜症に対して手術をしようとした試みとともに始つたのである. Blanco15), Gott16), Massimo17), Salisbury18)らは, 実験的に冠静脈洞より酸素化した血液を心筋に逆行性に潅流した. ついで, Lillehei19), Dewall20)らはこの逆行性冠潅流法をはじめて臨床に用い大動脈弁狭窄症に対して手術を行なつた. これに対し, 1958年Kay21)らは, 大動脈起始部を開き左右の冠動脈口に直接カニユーレを挿入し冠潅流を行ない, 臨床での大動脈弁手術の成功を報告している. この両者の優劣については, しばしば論じられてきたが, Shumway22), Melrose23)らは臨床例よりこの両者を比較検討した結果, 前者では大部分の潅流血がThebesian vesselを通して漏出し, このため時間的に使用の限界があり, 一方, 後者では術中および術後に重篤な不整脈は起きず良好な結果が得られたと報告した. かくして, 逆行性冠潅流法は次第に臨床に使用されなくなつた. 最近, 人工弁の改良とともに, 大動脈弁置換手術が日常の手術となり, 冠潅流の適正, 不適正がその手術成績の向上に大きな役割を持つようになつてきた. これまで, 冠潅流の手技, 方法については多くの報告がある. しかし, そのいずれも左右両冠動脈口にカニユーレを挿入して行なう冠潅流法についてである. この方法は操作, 手技が煩雑であり, かつ狭い術野を一層狭くし, このため体外循環ならびに大動脈遮断時間の延長, また冠動脈口の損傷または閉塞が起り, 手術時間の遷延による出血傾向, 心機能の低下が問題となる. 著者はこのような報告38)39)および臨床経験より大動脈弁置換手術と, 冠潅流を必要とする手術成績の向上をめざして, 左冠動脈単独潅流の実験的研究を行なつた. とくに, 実験心をその冠動脈分布より右冠優位型, 左冠優位型, 平均型に分類し, そのおのおのについて心機能を検討した. その結果, 温度, 潅流量, 潅流圧が適正であるならば, 左冠優位型, 平均型はもちろんのこと, 左冠動脈単独潅流が最も不利と考えられる右冠優位型においても, その心機能にも, また, 組織学的所見からも何ら影響のないことを証明した. いまだこのような報告はない. あわせて潅流量, 潅流圧について検討し, 適正冠潅流法を確立し, ついでこの方法を臨床上に応用し, きわめて好成績を挙げているので, ここに報告する次第である.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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