アブストラクト(17巻6号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 肺癌の発育形態に関する病理学的ならびにX線学的研究
Subtitle : 原著
Authors : 会美知明, 香月秀雄
Authors(kana) :
Organization : 千葉大学医学部肺癌研究施設第1臨床部門
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 17
Number : 6
Page : 710-742
Year/Month : 1969 / 6
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 「緒言」肺癌手術症例の予後が, 近年漸次改善されてきていることは事実であるが, なお他臓器癌のそれに比較して不満足な状態にある. その最も大きな原因は, 早期診断の困難性にあるといつても過言ではあるまい. 肺癌の臨床診断法には, 現在X線診断, 気管支鏡診断, および細胞診断の3方法が主要なものとして挙げられる. 診断の確実性の点からは, 後2者を挙げねばならないが, 共に気管支腔えの癌種の増殖を条件とするため, 癌腫の発生部位あるいは進展の形式, 病期によつて, これらの診断法はしばしば適応を狭められ, あるいは技術的な面, 設備等においても未だ普遍的であるとはいえない. これに対し, 推定診断ではあるが, 診断の第1の手掛かりとなり, かつ最も普遍性の高い胸部X線診断法が, 肺癌診断の上で占める立場は, 最も大きく, かつ重要であると言えようう. さらにまた, 推定診断といつても肺癌のもつ特徴が, X線所見としてどのように投影されるかを, 解析することによつて, その診断的価値は当然高められる可能性をもつている. 肺癌のX線像は, 結節型, 浸潤型あるいはその混合型と, はなはだ多岐多様である. これは肺癌発生によつて二次的に生じた, 周囲肺組織の病変が加わつて投影されることも, 原因の1つをなしているが, 癌腫の肉眼的所見によつても明らかなように, 癌腫自体の発育形態がきわめて複雑な様相を呈していることを, その基本的な因子として考えておかねばなるまい. 内外の文献にも, 同じ肺癌であつても, 病理組織型の違いによつて増殖, 転移の形式に差があり, したがつて治療適応の相異が考えられることが報告されている2)3). 例えば, 扁平上皮癌は放射線による治療効果が高いのに反し, 腺癌では放射線効果が一般に低いことが認められている4)5). また手術後の再発にしても, 扁平上皮癌には局所再発が比較的多く, 腺癌は血行転移の頻度が高いといわれている6)7). このような点からも, 他臓器の癌腫にくらべて病理組織型の多岐にわたる肺癌では, 適確な治療方針をたて, あるいは予後の判定を下すために, 診断の過程において, 腫瘍の性質の違いを把握することが要求されてくる. たまたま, 腫瘍は構造上類似する正常組織と似た性質を示すことがあるが, 病理組織型の違いによつて, 発育形態にその差異が投影される可能性が当然考えられる. 従来, 腫瘍が圧排性の発育を示すものは良性に近く, 臨床的にも予後の良好なものが多く, 浸潤性の発育を示すものは悪性の傾向が強く, 予後も不良なものが多いとされている8)9). このような腫瘍の病理組織型あるいは組織悪性度の性質による違いが, 病理形態学的所見, さらに臨床所見との間に相関関係をもつことは, 当然予測できるはずである. 1955年Riglerは3mm以上の肺の病変は, X線像上に投影されると述べた10). その後, 撮影方法, 技術およびX線発生装置の改善進歩は著るしく, 現在ではさらに小さな病変もX線像上にとらえられるようになつている. したがつて, 癌腫の肉眼的発育形態もかなり微細な点まで, X線像上に投影される見込みがある. 以上の見地から, 著者は病理組織的あるいは組織悪性度の違いによる肺癌腫発育形態の特微を, とくに癌腫の性状が最も明らかに表現されると考えられる発育尖端部すなわち, 癌腫の辺縁部に捉えてその相関関係を明らかにし, さらにこれらの所見がX線像上にいかに投影され, また臨床上の問題にどのような関係をもつかを明らかにするために, 以下の検索を行つた.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
このページの一番上へ