アブストラクト(17巻7号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 70%エチルアルコール内保存同種大動脈弁移植に関する研究
Subtitle : 原著
Authors : 小林寛伊, 三枝正裕
Authors(kana) :
Organization : 東京大学医学部胸部外科学教室
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 17
Number : 7
Page : 850-862
Year/Month : 1969 / 7
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 「第1章 緒言」 大動脈弁移植の実験は, 1952年, Lamら1)により, 犬の胸部下行大動脈へ移植, 術後16カ月生存した例に始まつたが, 臨床応用の第1例は, Murrayにより行なわれた2)3)4)5). すなわち, 1955年10月, 死体から採取後, 4℃の生理的食塩水中に36時間保存した新鮮弁を, 大動脈弁閉鎖不全症の患者の胸部下行大動脈に移植した. この患者は, 術後8年半を経過してもなお良好な状態であつたと述べられている5). 同種大動脈弁の同所移植は, 1961年, 人工心肺潅流下に, Bigelow5)が初めて試みたが, 術後24時間で, 冠状動脈血栓症により失つている. 1962年7月, Ross6)が, 大動脈弁狭窄症兼心房中隔欠損症の43才男子に, 凍結乾燥同種大動脈弁を, 両側冠状動脈潅流のもとに移植したのが, 成功第1例であり, この症例は, 術後4年半生存している7). Rossは, その後も引き続き数多くの臨床応用を行ない8), 同所移植例227例における死亡率は, 15.4%である7). Rossの第1例より約1カ月おくれて. Barratt-Boyesによつても同様の試みがなされ, 200例における死亡率は, 13.5%であると報じている9)10). 一方, 動物における同所移植は, 技術的にきわめて困難で, 長期生存例を得ることが, むずかしい11)12)13)13)15)16). しかしながら, 今日では, 同種および異種大動脈弁同所移植は臨床的に数多くの症例に対して行なわれており, その成績についての報告も数多くみられている7)9)10)17)18)19)20)21)22)23)24). 同種移植弁としては, ある意味では, 新鮮弁を選ぶことが最も理想的であるかもしれないが, 種々の困難をともない, 保存弁の使用が許されるならば, 実用上, はるかに便利である. このため, 今日までに, 多くの保存方法が検討報告されており9)17)18)19)25)26)28)29)30), 保存方法による弁の性質の変化に関する研究26)27)も種種みられている12)26)28)31)32)33)34)35). 著者は, 木本ら36)37)38)によつて行なわれた, 血管移植に際しての, 70%エチルアルコール内保存の方法の, 大動脈弁移植への応用を検討するために犬を用いて, 70%エチルアルコール内保存同種大動脈弁の後半月弁を同所移植する実験を行ない, 術後最長14カ月にわたる経過観察で, 良好な成績を得た15)16)17). さらに, 70%エチルアルコール内保存弁の臨床応用を検討するために, 70%エチルアルコール内保存による大動脈弁の物理的性質の変化を, 他の保存方法による弁と比較し, 保存液の細菌学的検討を行なつた. 一方, 犬の胸部下行大動脈へ, 70%エチルアルコール内保存同種一弁を逆向性に移植し, 弁の変化を追究し, また, 70%エチルアルコール内保存弁, および, 新鮮弁の犬皮下同種植込みを行ない, 両者を組織学的に比較検討した. これらの実験結果にもとづいて, 3例の臨床例に, 70%エチルアルコール内保存同種大動脈弁同所移植を行ない, 良好な結果を得た.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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