アブストラクト(17巻7号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 肺癌切除例における術後長期間歇化学療法の臨床的研究
Subtitle : 原著
Authors : 小山明, 香月秀雄
Authors(kana) :
Organization : 千葉大学医学部肺癌研究施設
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 17
Number : 7
Page : 863-878
Year/Month : 1969 / 7
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 「I 緒言」 現在肺癌に対する治療法として外科的療法, 放射線療法, 抗癌剤による化学療法が行なわれているが, その主体をなすものは外科的切除療法である. しかし外科的切除療法にしてもその成績は決して満足すべきものではなく, 1968年4月, 第68回日本外科学会総会における香月教授の報告1)でも見られる通り, 肺癌の全国集計例の術後5年生存率は15.8%と極めて低率であり, 千葉大学医学部・肺癌研究施設における肺癌切除例242例についても術後5年生存率は16%とほぼ同様の成績である(表1). このように成績が不良なのは, われわれの扱う患者の大多数が根治手術のなしうる限界をこえていることがきな原因である. このことは自験例の根治手術率がわず大か20%前後ということからもわかる通りであり, 早期発見, 早期診断が強調されるゆえんでもある. 自験例を根治手術が行なわれたものと, 姑息的切除におわつたものとに分けその成績をみてみると(表2), 根治手術例では術後5年生存率は52%と良好な成績をあげている. しかし外科的に根治と思われた症例でも5年以内にその約半数が死亡し, 死亡例の大部分は癌再発によるものであることから, 結局細胞単位としての癌腫を肉眼のレベルで取扱う手術的操作には限界があるといわざるを得ない. もちろん全身への血行性転移に対しては局所療法である外科的療法は全く無力である. 一方姑息的切除の行なわれた症例では, 根治手術例に比べて当然その成績は不良で術後5年生存率は8%にすぎない. しかしわずか8%であつても手術時, 明らかに癌細胞の残存が考えられたものに5年以上の生存者があるということは極めて興味深い. 手術に対する補助療法特に抗癌剤による化学療法の併用については, 手術時に局所にとり残された癌細胞に対する増殖抑制効果, あるいは術中に遊離された癌細胞の手術創への撒布や血行性転移形成の防止, さらに潜在性に存在する遠隔転移巣の発育増殖の防止といつた点に期待がかけられ, 比較的信頼度の高い抗癌剤の登場と相まつて, 現在では全国集計例で肺癌切除例の半数以上に抗癌剤の併用が行なわれるに至つている. しかしその併用の方法は抗癌剤の種類をはじめとして確立された方式がなく, 投与経路, 投与量, 投与時期, 投与間隔, 投与期間等各施設でそれぞれ独自の方法で投与が試みられているのが現状である(表3). しかもそれらの方法のほとんどが手術に直接して用いられているにすぎない. 香月ら1)2)3)4)は肺癌切除例の術後再発に関して, 局所再発は術後1年以内にその大部分が見られるのに対し, 血行性転移の発現は1年以内の濃厚な発現率のほかに, 術後2~3年, 時には4年, 5年中長期にわたつてみられ(図1), このような術後再発に対する処置をその再発の種類によつて別個に考えるべき点を強調している. とくに肺癌切除例の予後を改善するためには血行転移の発現を抑制することが最も重要であり, そのためには術後長期間にわたる抗癌剤の投与が必要であることを主張している. しかし今日一般に用いられている抗癌剤はいずれもかなりの副作用を有しており, そのため投与途中で中止せざるを得ない場合がしばしば見られる. 日比野5)らの報告によれば, 抗癌剤の投与量が増すとともに副作用の発現率も増加してくる. 抗癌剤の長期投与の必要性とそれに伴う副作用という互に相反する問題を解決するために, 著者は香月の示唆により術後長期間にわたつて間歇的に抗癌剤を投与する方法, すなわち“術後長期間歇化学療法”を実施し, それらの症例について検討を加えたので, その成績について述べてみたい.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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