アブストラクト(18巻1号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 虚血性心疾患に対する外科的治療の実験的研究 心筋切除内胸動脈有茎腹直筋移植術について
Subtitle : 原著
Authors : 石倉義弥, 赤倉一郎
Authors(kana) :
Organization : 慶応義塾大学医学部外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 18
Number : 1
Page : 39-50
Year/Month : 1970 / 1
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 「はじめに」近年本邦においても虚血性心疾患による死亡が急増してきている. これに対して今日まで主として行なわれている治療法は安静および冠血管拡張剤を主とする内科的療法である. 一方本症に対する外科的療法は, 心臓血管外科の長足の進歩にも拘らず, まだ満足すべき効果を期待し得る手術々式が確立されていない. しかしながら, その歴史を振り返つて見ると半世紀以上にわたる絶え間ない先人の努力がはらわれている. すなわち1916年Jonnescoが狭心症に対する交感神経遮断法を行なつたのを始めとし, 心負荷を軽減せしめる, 甲状腺摘出術などが行なわれたが6), これらはいずれも本質的に冠動脈血行の改善には寄与せず, 現在では全く行なわれていない. その後心筋への血液供給をはかろうと, 種々の方法が考案された. これらを血液供給方法から大別すると, 1)心筋との癒着により間接的に血液を供給するもの, 2)冠動脈間の副血行路を間接的に増加させるもの, 3)冠外血管より間接的に増加させるもの, 4)直接冠動脈再建により増加させる方法とがある. 間接法としては1935年Beck1)が初めて心外膜除去に胸筋移植心筋縫着術を施行, 引きつづき大網, 肺, 脾, 胃, 十二指腸などを縫着したり, 2)~6)滑石末その他を心膜内に撒布して心筋と心膜を癒着せしめたり6)7), 冠静脈洞の結紮8), 冠静脈洞動脈化手術9), 内胸動脈結紮術6)などが行なわれた. しかしこれらの大部分は現在ほとんど行なわれていない. 一方1946年Vinebergは10), 内胸動脈心筋内移植術を発表したが, その後, 冠動脈造影によりその臨床的効果が認められて以来11), つぎつぎとその改良法が発表されるようになつた. Leighninger12), Brofman31)らは動物実験により, 冠動脈閉塞時の突然死は, 動脈血の分布が不均等になることによつて起こる心筋のelectrical instabilityが原因であり, このelectrical instabilityの発生はごく少量の動脈血の乏血部への供給で防止しうることを見い出した. この実験は上記間接法に理論的根拠を与えたものである. しかしこれらの手術方法が提唱者の意に反し全面的に支持されなかつたのは, その効果が自覚症状の改善にとどまり, 客観的確証がなく, 手術効果に比して, 内胸動脈結紮術以外は手術侵襲が過大であつたためである. 一方Schlesingerは14)冠動脈疾患患者の剖検所見より, アテローム性硬化は冠動脈の主幹ないし心外膜下を走る太い冠動脈枝, とくに冠動脈起始部から4cm以内に限局し心筋内栄養枝はほとんど侵されないことを明らかにした. このような観点から微細血管外科の進歩と相まつて, 直接的冠動脈再建術が行なわれるようになつて来た15)~24). しかし, 1962年Sones11)が選択的冠動脈造影法を開発して以来, 冠動脈の硬化が従来考えられていた限局性のものとはかなり異つて, 比較的広範な領域に認められることが明らかになつて来た25)26). 心筋硬塞の大部分は続発する心不全, 心臓破裂, あるいは心室細動などにより死亡している. これらに対し, 1947年Murrayに27)より心筋硬塞部切除が実験的に行なわれ, Heinbeckerら28)は臨床例にもこれを試みた. 硬塞後の心室瘤に対しては1931年Bailey29)以来数多くその切除手術が行なわれている30). このように長い間にわたり数多くの人々により種々の改良工夫が行なわれて来たが, それぞれ手術方法には長所欠点がある. すなわち, 最も自然な形に最も画期的な効果を期待できる直接法も冠動脈の病変部位, 範囲によつて大きく制限をうけ, また今日臨床に広く用いられているVineberg手術も硬塞瘢痕部には適用できず, 早期の吻合形成機構にもなお疑問がある. 以上の諸点を考慮して, 心筋硬塞部を切除し, 同部に血行を保持したままの有茎筋肉弁を移植する方法を新に考案し, 実験的にその効果を検討し他の術式とも比較を加えた.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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