Abstract : |
「第1章 緒言」 臓器同種移植に対する研究は, 最近急速の進歩をとげてはいるが, いまだに未解決の問題が多い. 同種移植を免疫学的に考慮するようになつたのは, 1924年Holmanにはじまり, わが国では1932年篠井の報告が最初である. その後1943年Medawarのsecond set phenomenonの発表により, 同種移植を解決するには免疫学的研究が根本問題であることが判明し, 以来, 種々免疫抑制法が検討された. 免疫抑制法の中で抗免疫療法のほかに, 特異的に免疫学的反応状態を招来させる方法としては免疫学的寛容の導入Billingham6)8)ら, 免疫学的麻痺Dresser14)Mitchson36)ならびに免疫学的enhancement, Brent&Medawar11)Kaliss26)Snell43)があげられる. この中で, 免疫学的enhancementに関しては, 癌免疫の立場より, Kaliss, Brent&Medawar, Billingham, Snell, Berneらの報告がある. 正常組織によるenhancement効果についての報告は少なく, 皮膚移植については, Billingham, Medawar, Hardin, Nelson, Halasz, Mayer, らの実験があり, 家兎およびラットの皮膚移植前にdonorの皮膚, 脾, 肝, 腎, 胸管リンパ球などの組織で前処置した後皮膚移植を行なうと, 脾, 胸管リンパ管で前処置した群は皮膚前処置群に比して延命効果がみられたとしている. 同様にParkesはラットの卵単移植前に同種卵単ホモジネートを前処置することによつて好成績が得られたとしている. このような実験によつて, 同種移植を行なう時に, 前もつてdonorのある組織の移植抗原をrecipientに導入し, recipient内の抗体価と上昇せしめることによつて, 逆に免疫能が低下せしめようとするimmunological enhancementの解明は今後とも興味ある問題である. 著者はこのような事実に着目し, 正常組織の同種臓器, 組織移植に対する免疫学的enhancement効果を検索するため基礎的研究としてラットの各種臓器ホモジネートで前処置した後, 皮膚移植を行ない, その成果から犬の同種移植に際しての肺ホモジネートについての効果について検討を加えた. |