アブストラクト(18巻10号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 静脈移植の研究 主として特殊な合成代用血管材料および表面加工の検討について
Subtitle : 原著
Authors : 今井利賢, 杉江三郎
Authors(kana) :
Organization : 北海道大学医学部第2外科学教室
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 18
Number : 10
Page : 962-985
Year/Month : 1970 / 10
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 「I 緒言」 近年, 血管外科は数多くの先人の研究により, 長足の進歩を遂げ, とくに動脈移植においては, すでに多くの問題が解決されつつあり, 実地臨床においても, かなりの好成績がみられるようになつてきている. 一方静脈移植にあつては, すでに1906年Carrelら5)7)8)により初めて静脈移植の実験が試みられてはいたが, 大きな静脈の閉塞性疾患が比較的まれであり, 動脈系のごとく閉塞が直接生命の危険または重大な機能障害をきたしがたいと考えられたため, 一般的関心も薄く, 一時は顧みられなかつた. しかし, その後の動脈移植の進歩に伴なつてこの方面の必要性も漸く高まり, 実験的, 臨床的研究報告も次第に数を増してきた. 北海道大学杉江外科教室においても昭和36年以来, 静脈移植の問題について広く実験的, 臨床的研究を進め, 成功のための種々の要因を検討し, それらの知見について報告してきた36)38)58)67)83)~87)82)84)85). とくに, 成績を左右する最も大きな因子である移植材料についてみると, 上大静脈移植では自家静脈移植の成績がとくにすぐれており, また合成代用血管移植については, テフロン代用血管が最もすぐれ, 60~75%の長期開存率がえられている28)86). 自家静脈が移植材料として理想的ではあるが2)7)8)14)16)67)70)110), 大静脈移植に利用できる口径の大きな移植片を随時入手することは実地臨床上困難であり, 臨床応用の可能性は極めて乏しい. したがつて, 入手の容易な合成代用血管による移植成績の向上が強く望まれるところである. 合成代用血管を用いた静脈移植の失敗機転は大別して, 早期血栓閉塞と, 晩期吻合部狭窄閉塞によるものとされ3)38)83)~85)88), またこれらの機転は移植片における組織治癒過程の進展の度合いに密接に関連していることも知られてきている10)88)~102). しかし, 多くの研究が続けられているにもかかわらず, 今日なお静脈移植に理想的な合成代用血管は見出されていない. 現在この方面の研究は2つの方向に大別され, 第1には, 従来の合成線維の織り方, 作製過程に工夫を加えて, 移植後のフィブリン層の固着, 癒合を促進して, 早い安定した組織治癒を得ようとするものであり, 第2には, 合成代用血管に特殊な表面加工を行ない, 血液に対してより適合性のある内面を得ることに向けられている85). 第1の方向に関しては, 最近本邦でも多くの種類の人工血管が試作されている37)41)87). とくに著者らの教室において, 不織布代用血管(富士ケミクロス製, 試料番号#5555-3)を犬の腹部大動脈移植に用いた実験的検討によると, 全例とも早期血栓をまぬがれており, 血管移植材料として柔軟で, 宿主血管との適合も良好であつた. しかしその後の経過では, この代用血管に用いられた天然ゴムの接着部に生じた亀裂による出血死を認めており, これは強い動脈搏動, 天然ゴム接合の不均一性などに起因するものと考えられた. 著者は, 血管内圧の低い静脈系に用いられた成績を検討するため, この不織布代用血管(#5555-3)を犬の上大静脈移植に用いた. また, 同様の研究の方向として, 教室の田辺は胸部大動脈移植実験において, テリー・クロス・テフロンTerry cloth weave Teflon(Teflon No. 17918)代用血管を用い, 従来の合成代用血管と異なり, 移植後早期より良好なFibroplasiaの進行が見られ, さらに仮性内膜の形成, 組織治癒が速やかで, すぐれた移植材料であることを報告した85). 著者は, この動脈移植の成績から, テリー・クロス・テフロン代用血管を犬上大静脈移植材料として試用し, 成績を検討した. 第2の合成代用血管に対する表面加工の問題に関しては, 従来, 血管内膜には多量のヘパリンようMucopolysaccharideが見出されており23)40)51), 血管内膜の有する血栓防止作用は, この物質の抗凝固性と, 電気的陰性荷電の性状によるものと考えられていることから, 合成代用血管の表面にヘパリンを結合させる研究が続けられている84)85). この研究の1つとして, Graphite-Benzal-konium chloride-Heparin(GBH)coatingが近年注目され, 種々の検討がなされてきている24)~28)42)43)66)80)10~3)108). しかし, これを静脈移植に応用して, 形成された仮性内膜の詳細な組織学的検索を加えた報告は殆んどなく, また代用血管材質によつてはこのcoatingの成績も一定していないことから, 著者はこの被覆方法に改良を加え, テフロン, テトロン(またはダクロン)代用血管に応用して, 犬の上大静脈, 下大静脈に移植し, 成績の検討を試みた.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
このページの一番上へ