Abstract : |
「1. 緒言」 常温下で実験的に心室細動を起し, 心室細動持続時間を徐々に延長することによつて心臓を心筋不全(muscle failure)の状態におち入らせることができる. muscle failureの程度がすすむにつれて, 実験的心室細動に対する除細動が困難になり, さらに無効な除細動操作のくり返しにより一層failingの度合を強め, 心臓はもはや心室細動さえも生じない状態に達し, 遂には房室ブロックおよび心停止に移行することは実験的にも臨床的にもしばしば遭遇する事柄である. Beck1)らは多数の臨床体験から, 心室細動で急死する患者のグループと心筋収縮力の低下による拍出不全で死亡する患者のグループとを区別し, 前者をmechanism death, 後者をmuscle deathと呼び, 前者の剖検心から「Heart is too good to die」という印象を受けている. 実際, 心室細動が発生するためには必ずしもhypo-dynamicである必要がないことは実験的2)にも臨床的3)にも示されており, Langhorne4)もC.C.U.の経験から心室細動を起すものは軽症群に多く, asystoleで死亡するものは“pump failure”すなわち心筋不全に多いことをみている. 以上の事実は収縮不全におち入つた心臓は細動を起し難い, 換言すれば「不全心は心室細動を起し難い」ということを示唆する. しかしながら, 不全心は心室細動を起し難いことを血行動態と電気生理の両面から実験的に証明し得たものは見当らない. 以上より著者は心室細動発生閾値測定法を使用し, 果して「不全心は心室細動を起し難い」か否かについて実験的研究を行なつた. |