Abstract : |
近年, 閉塞性冠動脈疾患の外科療法として. 自家静脈片による直接的冠血行再建術の普及をみつつあるが, 一方, とくに瀰慢性動脈閉塞症による冠不全に対する内胸動脈心筋内植えこみ術の有用性はなお高く評価されている. しかし, 本法の奏効機序に関しては, Sones以来, 諸家によつて植えこみ動脈の永久的開存とその心筋機能改善への寄与が立証されているが, 術後早期の血流の有無ないしその虚血心筋機能に及ぼす影響等については未だ見解の一致をみるに至らない. 著者はそれらの問題を解明するべく, 犬34頭を用いて実験的に左室前壁に急性心筋虚血部を作成し, これに内胸動脈植えこみ術を行ない, 冠動脈結紮前後, 動脈植えこみ前後の左室心筋縮力, 左室壁の運動, 心電図, 血清酵素値, 血清乳酸及び蕉性ブドウ酸値等の推移を検討した結果, 植えこみ動脈の血流が, 術後早期より虚血心機能改善に有効に寄与しているという事実を確認するにたる成績をえた. すなわち, 冠動脈分枝結紮により低下した左室心筋収縮力は, 動脈植えこみにより対照値附近に恢復し, 虚血部心筋の奇異運動も, 植えこみ後は正常に近い動きを示した. 植えこみ術による虚血心筋機能の改善は, 心電図所見の変化からも確認され, 血清酵素値の推移からも同様の結果がえられた. 又, 心筋代謝を最もよく反映するといわれる乳酸, 蕉性ブドウ酸系酸化還元電位差の算定からも, 結紮後負に転じたものが, 植えこみ術後, 正常心筋と同様の正にもどるのが認められた. 以上の成績から著者は, 内胸動脈植えこみ術の初期血流は, 実験的に作成された急性虚血心筋機能の改善に有効に作用するものと考える. |