アブストラクト(21巻8号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 虚血性心疾患に対する上行大動脈-冠動脈バイパス手術に関する実験的, 臨床的研究
Subtitle : 特掲
Authors : 井上文正, 宮本忍
Authors(kana) :
Organization : 日本大学医学部第2外科学教室
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 21
Number : 8
Page : 751-767
Year/Month : 1973 / 8
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 虚血性心疾患に対する直接血行再建術としての, 大伏在静脈片による上行大動脈-冠動脈バイパス手術は, その有効性から広く行なわれるようになつた. しかしながら, 術後, バイパス片として用いた大伏在静脈片が狭窄あるいは閉塞したために, 症状の再発あるいは死亡する症例が出現するようになり, この組織学的変化および原因について注目されるようになつた. 著者は, バイパス手術に用いた静脈片の組織学的変化を, 犬を用いた実験例で観察し, このような変化は動脈片を用いてバイパス手術した場合には起こり難いと考え, 動脈片を用いて実験的にバイパス作成し, この組織について観察した. 臨床例に対しては, 右冠動脈バイパスの3例に対して動脈片を使用し, その他のバイパス例には大伏在静脈片を用いた. また大伏在静脈片の変化の原因については, とくに手術時のバイパス血流量が術後の開存率に影響するということから, 臨床例16例中大伏在静脈片を用いてバイパス手術した9例で, 閉胸時に電磁流量計でバイパス血流量を測定し, さらに術後6週間経過後に選択的バイパス造影を試みバイパス片の開存状態を観察した. 実験例でバイパス作成後4ヵ月目に採取したバイパス片の組織学的変化は, 大腿静脈では内膜の著明な線維性増殖による肥厚と, これに伴つて中膜の線維増殖が認められ, 血管内腔は高度の狭窄あるいは閉塞を来していた. これに対して大腿動脈片の変化は, 内膜に線維増殖が見られるが, 静脈片と比較して軽度であり, 血管壁は正常動脈と同様の構造で, 内腔はよく開存していた. 文献的にバイパス血流量が平均40ml/min以上の症例は, バイパス片の開存率が高いと報告されており, 著者の症例では大伏在静脈片を用いたバイパス症例は, バイパスの平均血流量は50~70ml/minの範囲にあり, 6週間後に施行した選択的バイパス造影で全例開存していることを認めた. 大腿動脈片を用いてバイパス手術した臨床例は3例であるが, 全例右冠動脈バイパス例で, 長期生存の1例は, 術後4ヵ月と2年7ヵ月に行なつたバイパス造影でよく開存し, 現在術前の仕事に戻つている. 実験的に静脈片でバイパスした症例では, 著明な組織学的変化を認めたが, 現時点では, 臨床例において動脈片と静脈片で開存率ならびに症状軽快の点で大差なく, 症例を選択して用いることにより, 虚血性心疾患の治療効果を上げることができる.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
このページの一番上へ