Abstract : |
心臓移植の医学的検討はその緒についたばかりであり, 心臓移植の成績を安全確実なものにするために克服せねばならない問題は多い, 移植心の生理学的機能維持に関する問題もその重要な1つである. 神経遮断移植心の刺激伝導系の意義をどう考えるかという疑問から, 刺激伝導系をふくめた移植心の切離範囲を決定するため, 次の3群について心移植後あるいは心房手技後の調律を検討した. すなわち, 1)解剖学的に明確な記載のないLower-Shumway法では, 右心房切離に際して50~60%の可能性をもつて刺激伝導系を損傷し調律異常を生ずることを確認した. 2)ついでこの不整脈が純粋に手術手技による解剖学的なものであることをたしかめるために行なつた右心房手技のモデル実験で, 調律異常の発生を全例にみた. すなわちLower-Shumway法の右房手技中, 洞結節, 分界稜をふくむ上半部分を鉗子で把持, 心内膜が可視できるまで心房壁を切離, 右房壁を縫合し終了すれば鉗子をはなす. この操作を連続して行ない. 右心房の上半部分を切離再縫合した実験モデルと下半部分に同様操作を加えたモデルとを作製, その上半部分の全例に調律異常の発生をみ, 下半部分では全く調律異常の発生をみなかつた. 3)この結果から, 洞結節, 右心房内刺激伝導路をドナー心に温存する右房手技を考案, 再度心臓同所同種移植を25例について行ない, 不整脈の発生頻度の著しい低下をみ, 心臓移植後の不整脈の防止に成功した. これによつて, 移植直後より全機能を発揮しなければならない移植心においては, 術直後より洞調律であることがのぞましいが, 洞結節, 分界稜の外科的温存が, 洞調律の発現にとつて重要な因子であることを確かめた. |