Abstract : |
心臓外科手術に際して, 長時間体外循環を行なつた場合にしばしばみられる術後心不全や末梢循環不全などに対する対策はいまだ確立されていない. これらに対する対策のひとつとして, 著者はphenoxybenzamine(POB)に着目し, その効果を知るために実験的研究を行なつた. 雑種成犬54頭を, 第1群:POB非投与群, 第2群:POB1.0mg/kgを投与し, 輸液も輸血も行なわなかつた群, 第3群:POB1.0mg/kgを投与し, 5%ブドウ糖液によつて中心静脈圧を投与前の値に維持した群, 第4群:POB1.0mg/kgを投与し, 輸血によつて, 中心静脈圧を投与前の値に維持した群の4群に分け, イソゾール麻酔下, 開胸下にPOB点滴開始後2時間の血行動態の変動を経時的に観察し, あわせて閉胸下に2時間後の循環血液量の変動を測定した. 第4群では満足な血行動態がえられ, その際必要とした輸血量は約40ml/kgであつた. 他方, 第3群では57ml/kgの大量の輸液を必要としたが, 血行動態は第4群に比べて劣り, しかも輸液量に相当する循環血液量の増加はえられず, 血管内液の漏出によつて腹水や組織の浮腫が出現した. 以上の実験成績をもとに107例の重症心疾患手術にPOBを使用した. そのうちフアロー四徴症を対象として, α-受容体遮断剤非投与群とPOB投与群の各20例およびphentolamine投与群8例とを比較すると, POB投与群では加温体外循環時間が短縮され, 術後の尿の排泄も比較的に良好であり, また術後の末梢循環不全症状の発現頻度は30%で, もつとも低くかつた. 一方, α-受容体遮断剤非投与群では55%に末梢循環不全症状がみられた. 術後の体重増加はPOB群がもつとも多く, 約2.8kg/m2であつたが, この程度の体重増加がえられている場合の術後の循環動態は比較的に安定していた. POBを使用した場合, 体外循環後の体重増加と中心静脈圧の変動は, より適切な循環血液量を知るうえですぐれた指標となりうる. |