Abstract : |
僧帽弁狭窄症の閉鎖下交連切開術は, 現在最も安全で確立された手術である. しかし, 従来から僧帽弁狭窄症を手術するに際し, 直視下にすべきか, 閉鎖下に行なうか, 問題とされていた. 僧帽弁の石灰化が強い例. 弁の可動性の悪い例. 血栓の予想される症例は, 開心術で直視下に弁を観察することが必要であるが, その程度を術前に診断する為に, 幾つかの方法が試みられている. 著者は左室造影法を用いて, 検討を加えたが, これによって僧帽弁の形態を知ることができると同時に, ある程度, 弁の機能も観察することができる. 僧帽弁狭窄症の弁狭窄の進行度を分類する前に, 正常弁の簡単な解剖及び投射方向による僧帽弁の形態変化を述べた. 左室造影は, 僧帽弁狭窄症単独のものおよび軽度弁膜症を合併したもの52例を検討し, 弁狭窄の進行度(または荒廃度)をI°~III°に分類した. これはSellorsの僧帽弁荒廃度の分類(type I~III)にほぼ合致するものである. すなわち, I°は弁の可動性が良く, 弁縁の平滑なもの. II°は弁の可動性は良いが, 弁縁が不規則な凹凸を示すもの. III°は弁の可動性は悪く, かつ弁縁の変形が強度のものである. このIII°において, 造影剤が拡張期に, 弁輪周囲にring状に滞留する新知見を得, これをsmoke ring signと称した. 次に進行度分類と手術所見を対比したが, III°は開心術が適応と考える. 開心して弁直視の上, 弁置換か否かを考えるのが妥当である. III°には再狭窄症例も多く含まれるが, 再狭窄症例および術式選択に迷う症例は, 左室造影を施行して, 弁の状態をあらかじめ知る必要があると考える. |