Abstract : |
胸部下行大動脈遮断の補助手段として左鎖骨下動脈から左大腿動脈へ人工血管を用いて長いバイパスを作成することにより, 血流遮断末梢側を潅流する一時的体外バイパス法について, その血行動態および血流遮断末梢側臓器の生理学的組織学的変化を調べることにより, バイパスに用いる至適人工血管内径, 安全に血流を遮断しうる時間を犬を用いた実験で追求し次の結果を得た. 1)胸部下行大動脈を補助手段なしに60分遮断すれば, 遮断解除時にショックに陥ちいる危険がある. さらに下肢対麻痺発生は避けられない. 左室負荷は70%増加し, 60分を越せば心筋収縮力は低下し心拍出量は減少する. 2)一時的体外バイパスに用いるバイパス径を左鎖骨下動脈と同径または1.3倍径を用いれば, 2時間の血流遮断で下肢対麻痺発生は防止することができる. 3)一時的体外バイパスに用いるバイパス径は左鎖骨下動脈の1.3倍径を用いるのが最も血行動態が安定している. この場合遮断中枢側血圧は10~25mmHg上昇し, 左心負荷は9%増加するが, 2時間の遮断でも心拍出量の低下はなく, バイパス血流量は32cc/kg分が得られる. 4)腎血流量は血流遮断前の45~60%が得られ, 血流遮断中にも尿の排泄があり, 術後の腎機能も正常で, 組織学的にも変化を認めない. 5)一時的体外バイパス法を用いての生存犬における脊髄組織学的所見は, 60分では正常像である. 2時間では軽度のAnoxiaによるhydropic degenerationがみられるが臨床的には下肢対麻痺としては現われない. したがつて本法を用いての血流遮断の限界は2時間であると考える. 6)6例の臨床例に本法を応用し, 術後の合併症もなく全例全治退院せしめた. |