Abstract : |
開心術中にヒス束など刺激伝導路を損傷し患者を重篤な状態におとしいれることがあるが, 現在のところ手術中にヒス束の位置をみきわめる有効な手段がない. われわれは開心術中にヒス束心電図を記録することによってヒス束の位置を確実に定めうるものか否か, 実験イヌにて検討を加えた. ヒス束心電図は右房右室側では単極誘導でとれる範囲がかなり限局されている. 三尖弁中隔尖の前半分から膜性中隔の部にかけて記録されるが, 冠状静脈洞開口部では記録されなかった. 左房左室側のヒス束心電図のとれる範囲はもっと限局しており僧帽弁前尖と無冠動脈弁の附着部に記録されるのみである. 一方, 双極誘導で記録すると, ヒス束心電図のとれる心内膜領域はかりな広いことがわかった. 双極のうちの一方が, ヒス束の下方半分の部に接しさえしておれば他端はどの部に位置しておっても, ヒス束心電図は記録される. 実験イヌのHV間隔は約33m. sec. であった. H波の波形は同一の症例でも, R波, RS波, S波などいろいろのpattermが双極誘導で記録される. われわれの実験方法ではヒス束の上方すなわち, 房室結節の近辺ではヒス束に由来する電位を記録しなかった. 開心術中にヒス束の損傷をさけるためには今後, 房室結節近辺の電位を記録するように工夫しなければならない. |