Abstract : |
グルカゴンの心臓血管系作用について, 開心術後患者7例を含む心疾患患者10例ならびに雑種成犬20頭に対する循環パラメータの変化を検討した. 検討した循環パラメータは, 臨床例では, 血圧, 心拍数, 心拍出量であり, 動物実験例では, 心拍出量, 上・下行大動脈血流量, 腹腔・上腸間膜・腎・大腿動脈血流量, 上・下大静脈血流量, 大動脈圧, 上・下大静脈圧, 左心室圧, 左心室dP/dt/P, 門脈圧, 心拍数などである. 臨床的には, グルカゴンのpositive chronotropic actionは心機能の良効な患者には認められるものの, 心係数2.5l/min/m2未満の心機能不良の患者では認められず, positive inotropic actionも同じ傾向を示した. 動物実験では, グルカゴンのpositive chronotropic actionならびにpositive inotropic actionを明らかに認め, 心拍数は最大20%の増加, 心拍出量も最大20%程度の増加を認めるとともに, 心筋の収縮性を表現するといわれる左心室dP/dt/Pも増加した. グルカゴンの末梢血管拡張作用には臓器特異性, 部位特異性が認められ, とくに上腸間膜動脈血流量の増加は著明であり, 最大2~3倍となり, 同時に門脈圧の上昇が認められた. 腎動脈など他の末梢動脈血流量の増加は, 心拍出量の増加分に比例した程度であつた. 上・下大静脈血流量の変化を比較すると, 上大静脈血流量の増加よりも, 下大静脈血流量の増加が大きく, 心拍出量の増加よりも, 下大静脈血流量の増加が大きかつた. 以上の結果から, 動物実験と臨床例との間に, グルカゴンの作用に差がみられ, 開心術後低心拍出量症候群などの治療薬としては, 有効とは考えられなかつた. |