Abstract : |
心筋硬塞は次第に増加の傾向を示しつつある重要な成人病の1つであり, その病態の性質上罹患者の多くは1週間以内のいわゆる急性期に死亡するのが現状である. 最近, この急性期心筋硬塞に対して根治的治療法として積極的に冠血行再建術が行われ始めたが, この場合急性虚血心筋の傷害の程度の推移を経時的に知ることが基本的に重要な問題であるにもかかわらず, この種の基礎的研究は数少ない. 本研究ではこの点を解明するために, 急性虚血に陥った心筋に対して冠血行再建術を行う際, 再建完成までの時間とそれまでの虚血に由来する心筋の変性の程度について経時的に硬塞の範囲と分布およびその組織学的変化を検討し, 再建術の効果が期待される時間的限界の決定を試みた. 雑種成犬82頭を用い, 左冠状動脈の前下行枝を30分から24時間の一時的血流遮断を行い, 4時間後から100日後に屠殺し, 血流を再開しない対照群とそれぞれの時期で比較した. そしてまずその基礎的実験として, 硬塞初期の病変の局在を肉眼的に容易に識別するためにnitro-BT反応を用い, その信頼性について検討し, その有効性を証明した. 硬塞範囲は血流遮断時間の延長につれて, 心内膜側から心外膜側に楔状に拡大したが, 一時的血流遮断群では硬塞は散在性であり, また多数の組織球の出現, 網状構造などの特異的な組織像を示し, 壊死心筋の修復機転の促進がみられるなど永久遮断と異った所見がみられた. 冠状動脈の血流遮断が30分以上続くと, その潅流領域の心筋は虚血による傷害をうけはじめるが, 冠血流が少なくとも12時間以内に再開されれば, 心筋の壊死範囲は限局化され, しかも早期治癒の可能性が期待される. しかし12時間以上の血流遮断が続くと, たとえ血流を再開しても永久遮断に近い様相を示すことから, 冠血行再建術は硬塞発生後少なくとも12時間以内に施行されることが望ましい. |