アブストラクト(22巻8号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : いわゆる“Traumatic wet lung”の病態生理に関する実験的研究 とくに胸部鈍性外傷後の肺循環動態および肺の病理組織学的変化について
Subtitle :
Authors : 遠藤英利, 宮本忍
Authors(kana) :
Organization : 日本大学医学部第二外科学教室
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 22
Number : 8
Page : 806-820
Year/Month : 1974 / 8
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 胸部外傷によつて直接肺が損傷された場合はもちろん, 臨床的に肺損傷が認められない症例においても, 受傷後気道分泌が増加し著明な呼吸不全を呈する病態に対し, すでに1945年Burfordはtraumatic wet lungと名付け, この病態は胸部の損傷の範囲によらず, 損傷の重症度に一致して肺組織に液体成分が貯溜するものであるとした. 最近Hopkinsonらはwet lungに関する実験的研究の結果, 胸部鈍性外傷によつて起る病態は肺挫傷が主体で, wet lungには移行し難いことを報告しており, traumatic wet lungの病態は依然として明らかでない. 著者は胸部外傷後のwet lungの病態生理を解明する目的で, 胸部鈍性外力による肺損傷を実験的に惹起せしめ, 受傷直後の循環動態, 受傷肺の力学的変化および病理組織学的変化について検索を試みた. 前胸部打撃による胸部外傷は, 打撃時一過性に気道を閉塞することにより心大血管損傷を避け, 肺損傷を惹起せしめ得た. 胸部鈍性外傷直後の呼吸循環動態は, 左心系の機能低下と一過性の肺動脈圧の上昇が認められるが, 肺血管抵抗のみは60分後なお増加しており, 換気面では受傷直後から代償性ならびに非代償性過剰換気を示すものがあり, これらの変化は損傷部の組織学的変化の範囲と程度に一致した. とくに受傷後60分でA-aDO2の増加が認められることから, 肺内シヤントの増加が主因と考える. 受傷肺の肺重量は受傷後24時間に増加し, 静肺コンプライアンスは受傷後72時間にもつとも低下した. 受傷肺の病理組織学的変化の主体は肋膜直下の出血, 肺胞破裂, 出血部周辺の無気肺およびair-trappingであり, 間質および実質の浮腫状変化は僅かであつた. 以上の実験結果から, 鈍性胸部外傷の病態は肺損傷に伴う肺の“stiffness”の増加が主体であり, 外傷のみによつてwet lungを発症させることは困難であり, いわゆる“traumatic wet lung”の発症には受傷後の大量輸液などの因子の関与が大きな役割を演ずるものと考える.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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