Abstract : |
急性期心筋硬塞による死亡は広範囲の心筋壊死に伴うPower failureの進展が主因である. これを抑制するためには, 不可逆性壊死に陥入つた虚血中心部の周辺に想定される“生きの悪い”細胞および組織すなわち境界層の蘇生・賦活化を計ることが重要である. 境界層へ十分量の酸素が供給された場合, 同部の活動性亢進を上廻る心筋蘇生が得られる時はじめて酸素需給均衡が正に傾き, 虚血心筋の悪循環を断ち切ることができる. 著者は犬を用いた左冠動脈前下行枝起始部を3時間および6時間完全遮断することによつて虚血心のモデルとし, さらに同部を解除することによつて冠血行再建のモデルとした上, 全経過を通じて循環動態面, 組織および組織代謝面から早期冠血行再建の意義と有効性につき検討を加えた. 3時間遮断3時間潅流犬では, 心筋表面心電図上虚血周辺部波型の原型への復帰, 反応性充血の回復度, H-EおよびNBT染色にみる組織賦活, さらに心収縮力の回復度などから, 虚血周辺部心筋には有効な心筋蘇生, 賦活化がなされ, 心臓全体としての回復が得られた. ただし急激な冠血流再開後心室性不整脈を来たす例があつた. これに対して6時間遮断3時間潅流犬の場合には, 心筋表面心電図上虚血周辺部は殆どQS型を示し反応性充血の回復もわずかで, NBT染色にみる虚血周辺部の組織変化も強かつた. また頑固な不整脈を発生する例が多く, その上広範な虚血領域を形成する例では著明な出血性硬塞を来たし, 冠血流再開が必ずしも有効とは言えなかつた. この場合すでに広範な不可逆性心筋壊死が存在するため, 冠血流再開による酸素供給が境界層の蘇生, 賦活化に役立つたとしても酸素需給均衡を正に傾けるに至らず, 虚血心筋の悪循環を断ち切ることができなかつたものと想像された. したがつて硬塞発生後6時間をすぎ, しかも広範囲の虚血領域が形成された場合, および心筋表面心電図上異常Q波が数点に認められた場合には, 冠血流再開はむしろ有害でありなんらかの他の外科治療の併用が必要と思われた. |