Abstract : |
心臓外科手術後に生ずる心不全や心原性ショックに対する対策はいまだ確立されていない. これらに対する対策のひとつとして著者はglucagonに着目し, その効果を知るために実験的研究を行つた. 雑種成犬52頭を4群に分けイソゾール麻酔下, 開胸下で実験した. 第1群はglucagon50μg/kgを1回静脈内に投与すると平均動脈圧, 心拍数, 左室収縮期圧, 最大左室圧dp/dt, 表面心筋収縮力, 心拍出量, 左冠状動脈回施枝血流量は5~10分で最高値に上昇し約60分で徐々に対照値にもどつた. 中心静脈圧は最初増加するが40分後は対照値よりも低い値を維持した. また全末梢血管抵抗は5分後最低値となるが次第に上昇し40分で対照値にもどる. 第2群は直接左冠状動脈に直径約40μの小粒子である石松子を250μg/kg注入し, 実験的硬塞犬を作成した. 硬塞犬は9例中7例が心停止で死亡した. 第3群では硬塞作成後門10秒~2分でglucagon50μg/kgを1回静脈内に投与すると21頭中15頭を救命することができた. 特徴的な変化は最大左室圧dp/dt, 左冠状動脈回旋枝血流量で硬塞により約半分の値になるがglucagonにより投与前の値以上になる. 第4群は硬塞作成後isoproterenolを投与しglucagon投与時と比較した. glucagon投与はisoptoterenol投与時よりも不整脈の出現は少なく, また心電図上も硬塞波形を増悪させなかつた. 以上の実験成績をもとに心臓手術中および術後の9例に使用したが, 1)虚血性心原性ショック, とくに冠状動脈直接手術後のショック, 2)心筋の興奮性が高く心室細動から仲々蘇生させえないもの, 3)心臓手術後交感神経系アミンを使用しても反応しにくい心原性ショックなどに対して有効であつた. しかし3)の場合にはglucagonの効果は一定しなかつた. |