Abstract : |
機能的にも器質的にも荒廃し障害された心臓弁にとつてかわる人工弁置換術は, 最も普及した治療手段として画期的な役割を果している. 著者はStarr-Edwards人工弁置換術後における人工弁, とくに弁口部に育生する仮性内膜の増生の程度を弁口面積を中心とした血行動態から研究し検索した. このために日本大学第2外科学教室で1969年9月~1974年3月までに僧帽弁疾患にたいしStarr-Edwards Ball弁(Model6310, 6320)を使用し, 単独弁置換術を実施した症例のうち, 術前および術後早期2~17ヵ月(平均11.4ヵ月), 遠隔期18~53ヵ月(平均32ヵ月)に左右心臓カテーテル法と左室造影法をおこなつた17例について検討した. NYHAの機能的分類による重症度の変化は, 術後早期では17例のうち4例がII度のほかはI度に, 遠隔期ではModel6310の1例を除き全例がI度に改善した. CTRまほぼ同様の傾向を示した. 左室機能では左室終末拡張期圧はModel6320が術後早期, 遠隔期とも改善度が良好であり, 運動負荷時左室終末拡張期圧も同様の傾向を示した. 左室駆出率は術後早期でいずれも増加し, 遠隔期でも変化なく推移した. 弁口面積はModel6310, 6320いずれも術後早期に著明に増加したが, 遠隔期では変動を認めなかつた. Model6320の術後早期の増加率がModel6310に比べて顕著であつた. 肺循環では肺動脈収縮期圧, 運動負荷時肺動脈収縮期圧, 肺動脈楔入圧, 全肺血管抵抗のいずれも術後早期, 遠隔期とも改善を認めた. 以上Starr-Edwards Ball弁, Model6310, 6320の弁置換後早期および遠隔期における血行力学的検索から, 弁口部における仮性内膜の過剰増生によると思われる狭窄, または閉塞は血行動態上認められなかつた. |