Abstract : |
心臓移植におけるdonor心を対称と心保存回路と心機能判定回路を併せ持つた独自の心肺標本装置を考案した. 心保存回路では常時一定の冠潅流圧のもとで拍動心保存が可能で, 常温下ヘパリン以外の薬物的補助を用いない最もきびしい条件下においても平均12時間, 最長15時間の心拍動維持が可能であつた. 心機能判定回路では, 常温(37℃)拍動下で, 段階的に循環血液量を増加させ, 左室に容量負荷をかけ, その都度, 仕事量(SW)を算出し, 左室機能曲線を求め, 心機能を推定する. この方法では, 心臓全体の心機能(Viability)を最も端的に示す力学的心機能(mechanical power)を中心とした心機能を容易に, 同時性をもつて, 何回でも判定することができ, しかも保存血自体に障害を残すことはない. 今この機能判定法により当保存回路で保存中の心機能を経時的に追つてみると, 正常心機能維持の可能な時間的限界は薬物補助を用いない場合, 5~6時間にあることを知つた. 心移植臨床応用では, 移植術直前までdonor心を生体内で拍動下に管理可能なごく限られた特別な場合を除いて, 手術直前に個々の移植心についての心機能がrecipientの生命維持に充分であることの確固たる裏付けが必要である. ここで信頼性に富む, より実際的な心機能判定法が求められる. ことにcadaver心をdonor心とする場合は一層のことである. つぎにわが国の現社会情況下では, いわゆる脳死の成立したliving heartをdonor心とする可能性はまず考えられないことから, donor sourceの医学的拡大はcadaver心に求めるほか道はない. そこで, 心蘇生の確認が容易で, しかも一たん低下した心機能が保存中に回復することの期待できる心肺標本による心保存法が最も有利である. 以上の如き観点より, 当装置は心移植臨床応用において有効な手段となり得ると結論した. |