アブストラクト(24巻2号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 心臓冷却潅流法による心筋保護の研究-臨床応用と成績について-
Subtitle :
Authors : 川上敏晃, 高橋順一郎, 石坂昌則, 杉江三郎
Authors(kana) :
Organization : 北海道大学第2外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 24
Number : 2
Page : 163-171
Year/Month : 1976 / 2
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 完全阻血状態での開心手術は, 視野が静止しているのみならず, 心筋にトーヌスがなく, 極めて良い術野を得ることができ, 冠静脈血の還流がないため, 複雑な心内操作が容易となり, かつ, 正確に行いうる利点がある. ただ, 常温など, 特別な心筋保護の対策なしでは心筋の阻血性不可逆変化の発生も急速に進展し術後の心機能に重大な悪影響をもたらすことは周知の事実である. 著者らは剔出心臓の保存実験の経験から, Modified Krebs液による冷却潅流で心臓のViabilityを24時間以上にわたり良好に保存することが可能であることを明らかにしたが, この方法を阻血許容時間の延長に役立つ心筋保護に応用しうると考えた. 動物実験における基本的手技の検討, さらにはその結果から本法は臨床上最大限必要と考えられる心内操作に要する2時間程度の心臓の完全阻血状態をかなりの余裕を見込んでも充分可能とするとの見通しを得, 臨床応用の価値も高いと判断した. 今回, 主としてAIの合併しない先天性および後天性心疾患の根治手術に応用し80分までの完全阻血での心筋保護に本法を大動脈基部穿刺による冠潅流で使用した. 13例の実施例中TOFの1例を術後本法と無関係な因子で失つたが, 全例血流再開後の心臓の蘇生と術後心機能に問題がなく, 手術手技の容易性とともに本法の有用性を認めうることができた. 検討した血清酵素ならびに血液乳酸値の術後変動からも重大な心筋傷害の発生は否定された. 今後の症例の増加をまつて, 従来, ルチーンに行われている誘発細動下心臓血液潅流法と本法との比較的長時間例を中心としての心筋保護効果における優劣の比較が行われるべきであろう. また, AI症例においては潅流手技に工夫を必要とするが, 有効な心筋潅流を行いうる逆行性冠静脈経由の方法についても言及した. 教室における方針として, 今後長時間の心内操作が予想される症例を中心に, 積極的な本法の応用を行つてゆくとともに臨床応用における手技上の問題の解明と, より合理的な潅流液への改良点も明らかにしていきたい.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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