Abstract : |
開心術の進歩に伴い, 弁膜疾患に対する手術も日常の手術として行われるようになった. 大動脈弁疾患に対する外科治療では, 大動脈遮断を要し, この際の心筋保護法に関しては, 種々の手技や方法がなされ研究されて来たが, 確立されたものはない. 著者らは, 常温体外循環下における冠状動脈潅流法を, 方法, 条件の違いより4群に分けて比較するとともに, 左冠状動脈潅流法の有効性について検討した. 〔実験1〕では, 左右冠潅流拍動心(第I群)ならびに電気的誘発細動心(第II群), 左冠潅流拍動心(第III群)ならびに電気的誘発細動心(第IV群)の4群における右心(右房, 右室)領域心筋の心筋血流分布量を測定したところ, 条件の同様な, III群/I群, IV群/II群の値では, 部位により差はあるが, 左冠潅流だけでも, 左右冠潅流の際の約40~70%の心筋血流分布量が得られることがわかった. 〔実験2〕では, 左冠潅流法の時間的限界を検索するため, 左冠潅流2時間までの冠血管抵抗値, 心筋酸素消費量の経時的変動を測定したが, 生理的範囲内と考えられた. また, 病理組織所見で, 光顕所見では, いずれの部位にも異常所見は認められず, 電顕所見では, 右室前壁心筋に虚血性変化が認められたが, 可逆性のものであった. 以上の結果より, 左冠潅流だけでも2時間までは, 左冠状動脈支配領域はもちろんのこと, 右冠状動脈支配領域心筋にも, 心機能を保持し得るに可能な血流分布量があることを確認した. |