Abstract : |
私どもは最近引きつづいて2例の左房粘液腫症例を経験し, 外科的治療によつて治癒せしめ得たので報告するとともに, 外科治療上の問題点について検討を加えた. 症例1は48歳, 男性で1年前より労作時呼吸困難を, 症例2は35歳, 女性で約7ヵ月前より心悸亢進, 発熱, 全身倦怠, 呼吸困難, 一過性片麻痺, 指尖の赤色斑点などを訴えて来院, 本院第2内科で精査の結果左房粘液腫と診断された. ともに右開胸, 体外循環下に右房切開を加えて右心系を精査した後左房切開を加えて, 心房中隔卵円窩に有茎性に付着する粘液腫を付着部心房中隔とともに切除し摘出した. 左房粘液腫は本邦においても39例の手術報告例があるが, 術前誤診例では術前診断適中例に比し死亡率が高く術前診断の重要性を示していた. 最近各種診断法が進歩し, 本症の際の心音図, 心機図, UCG, 心臓カテーテル法, 心血管造影法などの特色が明らかにされているが, とくに非定型的な例では疑診をおくことが大切であつてUCGはスクリーニング法としても有用と思われる. 外科治療に際しては, 早期における外科治療や術中における細心の配慮による塞栓症の発生防止が重要であるが, 再発防止策に関しては諸家の意見は一致していない. 文献的調査によれば現在まで15例の再発と2例の再再発例が報告されているが, その再発機序は不明な点が少なくなく, 腫瘍の取り残し, implantation, 多発性発生, 心房中隔における腫瘍好発素因などが挙げられている. さらに私どもの例では心房中隔の血管内に塞栓によると思われる腫瘍細胞が認められ, 再発の原因になり得るものと推定された. したがつて, 現時点では粘液腫とともに茎付着部の心房中隔を同時に一塊として切除する術式が, 再発防止上最も好ましいものと考えられる. |