アブストラクト(24巻10号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 心筋硬塞後左室瘤, 広範瘢痕化心筋切除術-術後急性期および遠隔期の血行動態と左室機能からみた手術適応に関する研究-
Subtitle :
Authors : 北村惣一郎, 曲直部寿夫
Authors(kana) :
Organization : 大阪大学医学部第1外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 24
Number : 10
Page : 1343-1364
Year/Month : 1976 / 10
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 連続せる10例(男7, 女3例, 平均年齢58歳)の左室瘤, 瘢痕化心筋切除術症例を対象としその術前, 術後急性期, 遠隔期の血行動態, 左室機能を左心カテーテル, 定量的心血管遠影法を用いて検討した. その結果以下の如き血行動態の変動とその機構を明らかにすることができ, ここから本手術をさらに安全で有効なものとするための血行動態的条件を求めた. (1)分時心拍出量, 一回心拍出量は術後1週間は術前値の60~80%と有意の低下を示し低心拍出量症候群を発生しやすい. これが術後1ヵ月目でほぼ術前値に復し術後6~12ヵ月目でそれを上回る(約125%)傾向を示した. (2)術後の一回心拍出量の増加には長時間を要していたが, これは残存心筋の収縮性の改善に基づくよりも残存する非収縮部の大きさに変化なく左室容積が再び軽度拡大する(Frank-Starling法則)ことに基づいていた. (3)本術式の基本となる血行動態的効果は一回心拍出量を減少させることなく非収縮部を除去し左室容積を減少させることにあつた. これにより術前疲弊したpreload reserveが回復し遠隔期には再びFrank-Starling法則に基づく一回心拍出量の増加がみられた. 駆出率の上昇, 拡張末期圧の低下, 収縮期壁張力の減少などの効果は左室容積の減少が主たる因子であつた. (4)△P/△Vで表わした左室拡張期平均stiffnessは術後低下する傾向を示したが全体平均としては有意ではなかつた. しかしこの因子も術後左室拡張末期期圧低下の機序として関与していることを示した. △P/△Vの低下は非収縮範囲の減少と相関関係を示した(γ=+0.603, p>0.01). (5)残存機能部心筋のejection phase indexからみた収縮性は3例(30%)において2S.E.(標準偏差の2倍値)以上の改善をみたが全体平均としては有意の変動を認めなかつた. 切除術の後負荷減少効果に基づく残存部心筋収縮率の改善は画一的に起こるものでなかつた. (6)術前の機能部心筋に限つた検討から術後の左室容積, 駆出率は簡単なモデルを用いてある程度術前予測が可能であつた. とくに駆出率の予測は比較的正確であつた(γ=+0.805, p>0.01). (7)一回心拍出量が40ml/m2以上あり左室腔拡大の少ない非収縮部-左室内表面積比20~25%以下の症例は血行動態の改善を目的とした手術の適応とはなり難い. すなわちこれらの症例では血行動態的改善は乏しい. (8)術後急性期の一回心拍出量の低下を考慮し, この時期を乗り切るためには平均的にいつて術前一回心拍出量20~25ml/m2以上が必要と考えられた. 本手術成功の条件(充分)は機能部心筋の平均周囲収縮率10%以上, または機能部心筋駆出率約0.3以上で残存左室容積90ml/m2またはそれ以上であつた. この大きさの左室作成には非収縮部除去後の左室内表面積95cm2/m2が必要であつた. 術前における残存心筋機能の量的, 質的検討はその手術適応, 術後成績を考慮する上で重要であつた. (9)多くの症例において残存部心筋の機能も正常より低下しており, かつ術後にも非収縮部は残存している. したがつて術後の左室機能は改善しても正常にはなりえず, 硬塞による心筋の損失は不可逆である.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords :
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