Abstract : |
心筋硬塞の急性期死亡率の改善のために, 発症後できるかぎり早期に冠血流の再開をはかる外科治療法が積極的に行われるようになったが, その治療成績はかならずしも満足すべきものではない. この理由として, 冠血流が再開されるまでの期間が冠状動脈の血流遮断時間の安全限界をはるかに凌駕する長時間であることが考えられる. 本研究は冠血流が再開されるまでの期間の虚血心筋の庇護という点から高気圧酸素が有効であるか否かを検討し, さらに高気圧酸素環境下で冠血行再建術を行った場合に, 高気圧酸素が一時的虚血心筋の冠血流再開後の経過におよぼす影響について検討したものである. 雑種成犬を用いて, 2絶対気圧純酸素呼吸下で左冠状動脈前下行枝を結紮して2時間の完全血流遮断を行ったのちに冠血流を再開した. 血流再開後さらに2時間高気圧酸素環境下に収容して大気圧下にもどした. この間の血行動態, 血液ガス所見および4時間後, 5日後の虚血心筋の分布範囲と組織所見を大気圧下で同様の実験を行った対照群との間で比較検討した. 高気圧酸素環境下で行った実験例では, 対照群に比べて, 虚血心筋の分布範囲は著明に縮少・限局化し, 5日後には肉眼的にほとんどみとめられなくなり, その組織所見でも瘢痕治癒が促進される傾向がみられた. また心室細動などの重篤な不整脈の発生も抑制されて安定した血行動態がえられた. 以上の成績から, 高気圧酸素環境は冠血流が再開されるまでの虚血心筋の庇護および血流再開後の虚血心筋の修復の促進, さらに術中はもちろん術前・術後の梗塞心の血行動態の安定化などの点からみて, 緊急冠血行再建術時の非常に有力な補助手段となりうるものと考える. |