Abstract : |
食道癌のリンパ節転移は癌の局所浸潤とともに外科治療成績の向上をはばむ大きな因子であるが, 局所解剖学上の制約や手術侵襲上のリスクのために, 術中これを見究めることは困難である. われわれは食道癌の初期から末期にいたるリンパ節転移の詳細を観察する目的で, 家兎のV×2癌を食道粘膜下に移植して移植食道癌をつくる方法を考案し, 癌占居部は食道癌取扱い規約にしたがって頚部(Ce)から噴門(C)までの6個所に合計57例の実験食道癌を作製した. まず癌発育の過程をみると, 移植1週間で長径1cm, 2週間で2cmとなり, 10日目頃からBorrmannII型の潰瘍を形成しはじめ, その後はBorrmannIII型の壁内進展をとげ, 4週前後で餓死した. この間, 外膜浸潤とリンパ節転移は長径1cmをこえる頃から陽性となり, 3cm以上ではともに全例陽性となった. このように本法はヒトの食道癌のモデルとして十分役に立つことがわかった. 癌移植部位別のリンパ節転移分布状況を述べると, まず頚部(Ce)ならびに頚胸境界部(Ce=Iu)癌では, 頚部から胸部上部までの転移をきたしたが, 胸腔ではとくに気管系リンパ節への転移が顕著であった. 胸部上部(Iu)癌では気管分岐部以下への転移はまれだったのにくらべて, 胸部中下部(Im, Ei)癌では, 気管分岐部以上へはIuと同程度, 分岐部以下へは腹腔にいたるまで上方へと同じぐらい高率の転移があった. 腹部食道(Ea)ならびに噴門(C)癌では頚部から傍腹部大動脈までもつとも転移分布が広範囲であった. 臨床上この部の癌で漿膜浸潤陽性であれば, 根治のためには右開胸によるリンパ節廓清が必要と考えられる. いずれの部位の癌でも, 手術上廓清困難な気管系リンパ節にかなり高率に転移が認められた. これより類推すれば, 気管系リンパ節転移への対策が, 臨床上今後に残された問題の1つと考えられる. |