Abstract : |
人工弁置換術後に発生する血栓塞栓症の成立機序を明かにするために, 心臓弁膜疾患に対して人工弁置換手術を行った38例(人工弁置換群)および同種大動脈弁による弁置換術または弁形成術を行った36例(対照群)について, 血液凝固学的検討を行った. 術前および術後に採血を行い, Thrombelastogram(TEG), 血小板数, 血小板粘着率, プロトロンビン活性度, 血漿フィブリノーゲン量, プラスミン活性を測定した. 人工弁置換群には術後全例に抗凝血薬を投与し, 対照群は, 抗凝血薬非投与群27例(対照群I)と投与群9例(対照群II)に分けて検討した. 1)人工弁置換群および対照群IIでは, 術後抗凝血薬を投与したために, TEGのrは延長し, プロトロンビン活性度は低下する傾向がみられた. 2)TEGのmaは, 人工弁置換群では対照群Iと比較して, 術後14, 21, 28, 42, 56病日に, 対照群IIと比較して, 21, 42, 56病日に, 推計学的に有意の増加を示した(p<0.05). 3)血小板数は, 21, 28病日に, 血小板粘着率は, 14, 21, 28病日に, 人工弁置換群では対照群Iおよび対照群IIと比較して, 推計学的に有意の増加を示した(p<0.05). 4)血漿フィブリノーゲン量では有意の差がみられなかったが, プラスミン活性では, 人工弁置換群で14病日に10例中3例に, 35病日に6例中2例に陽性例がみられ, 対照群ではいずれの病日でも陽性例はみられなかった. 以上の成績から, 人工弁置換術後では, 人工弁を用いないで同様な手術を行った厳密な対照症例の術後と比較して, 術後14病日から56病日の間で, TEGのma, 血小板数および血小板粘着率が特異的に増加していることを認めた. すなわち, 生体内に挿入された人工弁が, 血液凝固系, とくに血小板系に作用して, 血液凝固能を亢進させることを明らかにした. |