Abstract : |
われわれは下部食道噴門がんに対して, 開胸をしないで開腹のみで充分に病巣を切除した後に, 再建をby-pass法に準じて胃管または結腸を皮下経路で頚部につりあげて, 頚部食道と吻合する術式を考案し, 多くの臨床症例を経験して, 満足すべき結果を得ている. 本法の最大の眼目は, 開胸をさけたという点にある. 開胸ががんの増殖に促進的に働くであろうということは, 観念的には理解されても, 具体的にこれを示すデーターは, 文献上まだみられていない. われわれは, 呑竜ラットと, 佐藤肺がんという, 現在わが国でもとめ得るもっとも信頼度の高いsyngeneicな系を用いて, 以下のべるようなモデル実験を行った. 佐藤肺がん細胞はいろいろの数を, 静脈内または腹腔内に接種した. 接種後2日目に, 1時間の開腹術, 開胸術, 開胸開腹術をそれぞれ負荷した. 生存日数でみると, 静脈内も腹腔内接種の時も, 同様に開胸開腹群で対照群に比し有意な短縮がみられ, 以下開胸群, 開腹群の順に生存日数の短縮がみられた. これは接種する細胞数の数が少ない程, その差が明きらかに示された. また静脈内接種の場合, 肺の結節数および結節の面積比についても検討したが, 生存日数の場合と同じように, いずれの細胞数においても, 対照群に比して, 開胸開腹群は著しい増加が見られ, 次いで開胸群, 開腹群の順となった. 以上の成績から, 結論として開胸が腫瘍の増殖を有意に促進することが明きらかにされたが, これは必ずしもがんの手術に開胸を否定するものではない. もちろん開胸しないですませるものならば, それに越したことはないが, どうしても開胸しなければ剔出ができない時には, 開胸によるデメリットを上廻わるメリットがもたらされるような条件のもとに, 慎重に開胸にふみ切るべきことを示唆しているものと考える. |