Abstract : |
従来は単純結紮による左あるいは右上大静脈の血流転換に関する基準が厳しかったため, 左上大静脈遺残を合併した完全大血管転位症に対するMustard手術では, 右上大静脈開口部はもちろん, 左上大静脈と合流する冠静脈洞開口部や, 下大静脈開口部を含めてbaffleを縫着する術式が行われてきたものと思われる. 最近われわれは, 左上大静脈遺残を合併した本症situs golitus, d-loop, d-TGAの修復にあたり, 上半身の脱血を右上大静脈だけとした完全体循環下に, 心房レベルで下大静脈と冠静脈洞および左上大静脈の血流を左心室へ変換し, 心内修復後は, 右上大静脈を心嚢内で結紮した. 右上大静脈結紮による脳合併症もなく, 血流変換も安全に行われていたが, 不幸にして, 術後7日目に重症感染症のために失なった. このいわば変則的Mustard手術は, 右上大静脈開口部のbaffle形成が不要となるため, 解剖構成の小さい乳児で両側上大静脈を合併した症例に対しては, 心房内血流変換がきわめて簡便であり, 追試してほしい修復法と思われる. ここでは経験症例の詳細をのべ, また乳児の左上大静脈遺残の診断と右上大静脈結紮術の安全性に関しても考察を加えてある. |