Abstract : |
人工心肺による体外循環が比較的長時間にわたり安全に行えるようになった現在においても, 体外循環下における病態生理の解明には, なお問題点があり, これらのうちでとくに脳組織代謝については未解決の問題が多い. 本研究は脳脊髄液(CSF)が, 脳組織代謝を反映するのではないかとの観点より, 体外循環がCSFにおよぼす影響を解明するためにLande-Edwards膜型人工肺やHarvey気泡型人工肺その他を用い, 体外循環前, 中, 後におけるCSFおよび動脈血の電解質(Na, K, Cl, Ca, Mg)を経時的に分析し, これらを膜型肺群と気泡型肺群に分けて比較検討を行った. その結果, Naについては, 動脈血のNaが膜型肺群と気泡型肺群では著明な差を示したのに対し, CSFのNaはともに同傾向を示したが, 術後の上昇が著明であった. Kについては, 動脈血のKが著明な変動を示してもCSFのKは気泡型肺群が軽度上昇を示したのみで, 相関関係は認められなかったが, Clは術後著明な上昇を示した. Caについては動脈血のCaが体外循環開始後急上昇を示した後, 下降をつづけたのに対し, CSFのCaは術後上昇をつづけて正常範囲を超えた. Mgについては術後に変動を認め, 上昇を示した. これらの生化学的分析から, 現在, 心臓外科における体外循環が充分安全に行いうることを確かめえただけでなく, CSFが体外循環中の脳組織代謝を推測するうえで, きわめて有用なモニターとなることを確かめることができた. |