Abstract : |
異型鎖骨下動脈は, Stewart, Edwardsの発生学的分類によれば, このIIおよびIII型に属する先天性大動脈弓奇形の一種である. このたび, われわれは, 左大動脈弓, 左下行大動脈, 右異型鎖骨下動脈, 左動脈管に, 大動脈中隔欠損症を合併した生後11ヵ月の男児の未だ, 文献上に例をみない珍しい症例と, 右大動脈弓, 左下行大動脈, 左異型鎖骨下動脈, 左動脈管索に, 室上稜部心室中隔欠損症を合併した5歳の男児の症例の手術治験を得た. 第1の症例は, Stewart, Edwards分類のII Blに, 第2の症例は, III Bllに相当する. そこで異型鎖骨下動脈の主に診断と手術について, 従来より述べられている考え方に対して, つぎのように私見を加え, 文献的考察を試みた. 異型鎖骨下動脈は, 喘鳴と嚥下困難を主症状としているが, われわれは, この喘鳴の発生に疑問を持っており, 異型鎖骨下動脈が, 直接これに関与しているのではなく, 他の外的因子, すなわち合併する主要心疾患の影響や, 哺乳の具合による, あるいは上気道感染や, Baileyなどの誤嚥によるという説, また, 井上(昭), Klinkheimerらの他の何等かの圧因子によるのではないかという説に賛同したいこと, また, 嚥下因難に対しても, 異型鎖骨下動脈, すなわち, dysphagia lusoriaというBayfordの説ではなく, 頚動脈の起始形式によって嚥下困難をきたすというKlinkheimerの解剖学的説明に賛同したい. また, 手術に対しては, 治験例からみて, 全例手術するのではなく, 原則として, 異型鎖骨下動脈の手術をしないとする, Mayo Clincグループの意見を支持したい旨を述べた. それよりも, 合併する動脈管の切離および, 主要心疾患の手術が大切であり, 肺動脈圧をさげてやること, 食道狭窄部周囲組織の剥離が大切である. しかし, 残存する異型鎖骨下動脈が, 加齢とともにまた, 動脈硬化など老人性変化でどう変ってゆくか, 経過観察が, 是非, 必要である. |