Abstract : |
上位気管から声門下腔にかけての気道狭窄が発生すると, 現在なお決定的な方法がないため気管套管抜去困難症として経緯している場合が多い. 本論文は, このような症例に対する治療法として一期的声門下腔再建術(輪状軟骨・気管切除, 喉頭・気管吻合術)の術式と意義について論じたもので, 本術式に必要な局所解剖学的特異性をもとにした手術の要点, 手術の適応と限界について考察を加えた. 本術式の基本的吻合操作は通常の気管端々吻合術と変わりはないが, 特記すべき点として以下の諸点を指摘しうる. (1)喉頭部の切開は, 前面の輪状甲状筋の上縁近くで, 続いてこれに覆われて存在する輪状甲状靱帯を最下縁で切離, 喉頭側に充分な縫代を残して声門下腔に入る. (2)反回神経が甲状, 輪状両軟骨の後方関節部で喉頭へ入るので, この部分を温存するため前面からの喉頭切開は後方で下へ切りさげる必要があり, 喉頭側の吻合面は前面で上方に傾いたstomaとなる. (3)剖検例の計測で, 上記前面切断線の高さから声帯までの距離は11~13mm, その断面積は気管の44%, 最大径の方向は気管と90°異なり, 壁の厚さも5倍の差がある. まず喉頭側と気管側の粘膜同志を確実に縫合わせることを第一義的に考え, 吻合を完成させる必要がある. 本術式の可否は声門下腔内での狭窄の高さ, すなわち, 喉頭側の縫代がとれるか否かにかかっている. そのため, とくに高位気切後に発生する上向型の声門下腔狭窄に, 本術式の多くの適応が求められる. |