Abstract : |
血管輪は, 胎生期の原始大動脈弓および背側大動脈幹の発生異常が原因であり, 気管・食道の圧迫さらには絞扼症状を呈する疾患である. しかし, 血管輪の症例報告を検討してみると, 乳児期に緊急手術を必要とする症例から臨床症状に乏しく一生を血管輪と診断されぬまま過ごす症例まで含まれる. 著者らの最近経験した2症例も血管輪としての症状は極めて軽度で, 入院後に施行した食道造影および大動脈造影により確認することができた. また詳細な問診により乳幼児期には気管・食道の圧迫によると考えられる症状の存在が明らかとなった. 著者らの呈示する症例1は高度の肺動脈弁狭窄症に合併した重複大動脈弓である. この症例は直視下に肺動脈弁狭窄を解除したが, 術後急性腎不全を合併して死亡した. 症例2は左鎖骨下動脈起始異常を伴った右大動脈弓で, 左鎖骨下動脈起始部が嚢状膨隆しており, いわゆる大動脈憩室の形態を呈していた. この症例は乳児期こそ喘鳴, 気道感染等の症状を呈していたものの, 現在は血管輪としての気管・食道の圧迫症状はない. この型の右大動脈弓は心内奇形を合併することが稀であるとされており, それ故に発見される頻度も極めて少ない. 本論文では, 年長児や成人のなかに往々にして気管・食道の圧迫症状の乏しい血管輪の症例が存在することを強調したい. 同時に, そのような症例について診断の手がかりおよび臨床症状や病態の特異性についても文献的考察をした. |