Authors : |
野々山明, 笠原憲二, 福中道男, 佐藤正, 大迫努, 藤尾彰, 斉藤幸人, 増田与, 香川輝正 |
Abstract : |
現在までに開心術中の心筋保護法について幾多の報告がなされてきたが, ことに著明な心肥大や高度の心筋障害を伴っている例に対する心筋保護法は, 現在でもなお, 必ずしも満足とはいい難い. また, 各種の心筋保護法の効果を, 術後かなり長時間にわたって適確に評価しうる示標についても, 現在充分な検討が行われているとはいい難い. 私達は, 昭和48年11月より, 冷却血液による低流量・低潅流圧の選択的冠潅流法を心筋保護法として用い, その効果をすでに発表したが, 今回はとくに, 60分以上の冠潅流を要した著明な心室肥大を呈する臨床例25例および上行大動脈banding施行によって実験的に作成した左室肥大犬14頭を対象として, 冷却血液冠潅流法の, ことに肥大心に及ぼす保護効果について報告するとともに, 最近1年間の臨床例22例(60分以上の冠潅流5例, 60分以内の冠潅流5例および対照12例)について, 術後72時間の間, 心筋酵素ことにCPK-MBの変動に検討を加えたので, あわせて報告する. 臨床例25例(大動脈遮断時間は60~214分で平均94分)は, 左室肥大または両室肥大を呈した10例と右室肥大を呈した15例であるが, いずれの群でも, 15℃前後の心筋温で2.5~3.0ml/minの酸素摂取がみられ, 心筋乳酸産生および△Ehなどよりみた心筋代謝は良好に維持され, 術後心機能にも障害がみられなかった. 実験的左室肥大犬(冷却血液冠潅流法7頭)でも, 2時間の大動脈遮断実験で, 心筋代謝, 電顕的超微細構造およびcarbonized microsphere 85Strontiumを用いて測定した心筋血流分布などは, 正常犬の場合と同様に良好に維持され, 同一条件下での心筋表面冷却群(7頭)との間に, 有意の差を認めた. また, 臨床例22例で測定された心筋酵素のうち, CPK-MBは開心術後の心筋障害の程度を表わす鋭敏な示標となりうるものと思われ, この変動よりみても, 本法はすぐれた心筋保護法と思われた. |