Abstract : |
弓部大動脈瘤の手術は, 手術手技そのものゝ困難さに加え, 脳・心筋保護の補助手段を必要とするためにさらに複雑さを増す. われわれは最近68歳女性の梅毒性上行弓部大動瘤に対し, 分離体外循環と心局所冷却により同部の完全人工血管置換を行った. 送血は股動脈, 右腋窩動脈, 左頚動脈より行い, 大動脈の吻合完了と同時に冠血行を再開させ, 拍動下に弓部分枝の再建を行った. 術後, 脳神経合併症もなく順調に経過した. 本例はわが国における弓部全置換の成功例としては最高齢者と考えられた. 本症手術の補助手段として分離体外循環のほか, バイパスシャント法, 全身低体温法などがあるが, それらの方法の適応, 利欠点などについても考察を加えた. 「はじめに」近年胸部大動脈瘤の手術治療成績の向上は目覚しいものがある. しかし上行弓部に亘る大動脈瘤は症例も少なく, また手術手技および使用する補助手段も他部位のものに比べ複雑, 困難で, DeBakeyら1)による最初の成功例は1957年に報告されているものの, その後の成績はいまだ満足すべきものとは言い難い2). 補助手段としては分離体外循環1)3), 全身低体温4)5), 一時的バイパス法6)7)などによる中枢神経保護とともに種々の心筋保護が行われているが, いまだ脳, 心筋障害に起因する死亡も少なくない. |