アブストラクト(27巻10号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : 冠静脈系の動脈化に関する実験的研究
Subtitle :
Authors : 奥野邦男, 麻田栄
Authors(kana) :
Organization : 神戸大学医学部第2外科学教室
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 27
Number : 10
Page : 1390-1402
Year/Month : 1979 / 10
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 虚血性心疾患に対するA-C bypassは, 広く一般に普及し, すでに良好な成績が収められている. しかし, 症例によっては, 冠動脈の硬化性病変が末梢にまで及んでいて, A-C bypassが不可能な場合に出会わすことがある. かかる重症例の対策として, 著者は急性心筋梗塞犬に対して, 冠静脈系の動脈化手術を実施し, その効果を検討した. 雑種成犬93頭を用い, 左冠動脈主幹(LMCA)または左前下行枝(LAD)の結紮に引き続き, 冠静脈洞(CS)に逆行性に動脈血を潅流するAO-CS bypassまたは, 左前下行枝静脈(LADV)へ逆行性に動脈血を潅流するAO-LADV bypassの2つの手術を実施した. 実験犬93頭の内訳は, (1)左冠動脈主幹(LMCA)結紮・・・3頭, (2)LMCA結紮犬に対するAO-CS bypass・・・5頭(3)左前下行枝(LAD)結紮・・・21頭, (4)LAD結紮犬に対するAO-CS bypass・・・26頭, (5)LAD結紮犬に対するAO-LADV bypass・・・38頭である. LMCA結紮犬は30秒~5分以内に死亡したが, LMCA結紮と同時にAO-CS bypassを行った4頭は, 2時間以上生存した. LAD結紮群, LAD結紮後にAO-CS-bypassを行った群, およびAO-LADV bypassを行った群の死亡率は, それぞれ38%, 12%, 5%であって, 明かにバイパス群が良好な成績を示した. つぎにバイパス内圧について検討したところ, AO-CS bypassでは26頭中10頭(38%)が, AO-LADV bypassでは38頭中9頭(24%)が, 90mmHg以上の内圧を示し, このようなバイパス内圧が90mmHg以上の犬では, 静脈系に沿って小出血斑の出現が認められたが, 血行動態的にはほとんど悪化がみられなかった. さらにLAD結紮部末梢側の逆流量, 逆流圧およびPO2を測定したところ, AO-CS bypassまたはAO-LADV bypassをおいた犬では, ともに, 逆流量は増加, 逆流圧は上昇し, PO2は下降していた. 以上の成績から, AO-CS bypassおよびAO-LADV bypassは, 虚血心筋に, 逆行性に酸素を供給しうるものと推測され, 臨床応用の可能性が立証された. ただし, この際バイパスの内圧は90mmHg以下に維持することが肝要であることも確認された.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords : 冠静脈系の動脈化, 末期的冠動脈硬化症, 逆行性冠静脈潅流, 大動脈・冠静脈洞バイパス, 大動脈・前下行枝静脈バイパス
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