アブストラクト(27巻11号:日本胸部外科学会雑誌)

Title : Cardioplegic Solution中のCalciumの至適濃度と“Calcium Paradox”
Subtitle :
Authors : 天野純, 鈴木章夫
Authors(kana) :
Organization : 順天堂大学胸部外科
Journal : 日本胸部外科学会雑誌
Volume : 27
Number : 11
Page : 1599-1610
Year/Month : 1979 / 11
Article : 原著
Publisher : 日本胸部外科学会
Abstract : 開心術中の心筋保護を目的として, 種々の心筋保護法が検討・応用されてきたが, 薬剤を用いたchemical cardioplegiaは, 冠血流遮断直後よりすみやかにdiastolic arrestに導き, この間の高エネルギーリン酸化合物の減少を防止可能なため, 術後心機能の回復も良好で, ひいては手術成績向上に貢献してきた. しかし, chemical cardioplegiaに用いられる液の組成・性状ならびに潅流法については, 統一された見解の一致をみておらず, とくに添加される電解質には, Na.K, Ca, Mgがあり, K, Mgについては主として心停止作用を目的として用いられている. Caはその作用と細胞内における分布から, (1)Excitation-Contraction couplingに関与するcontractile calcium(2)細胞膜のstructural integrityを維持するstructural calcium, (3) (1)(2)以外のnon-functional calciumの3つに分けられる. cardioplegic solutionとして無Ca液を用いた場合“Calcium paradox”に陥ったり, 高Ca液を用いた場合, systolic arrestとなり大量の高エネルギーリン酸化合物が消費されるため, 無Caや極端に高濃度Caを用いた液は, 不適当なため, Caについてその至適濃度を決定し, “Calcium paradox”発現に及ぼす温度の影響を検討した. 42頭の雑種成犬を用い, 中等度低体温下に90分間の大動脈遮断を行い, 28℃前後の心筋温とし, 6種のCa濃度(0, 1, 2, 3, 4, 5mEq/L)の群と, 20℃前後の心筋温でCaを含まない液を用いた群に分け, 血行力学的, 血清酵素学的, 心筋代謝ならびに心筋超微形態学的に検討した. 心筋温28℃において, 無Ca群で, 機能形態面で著明な心筋障害が認められた(“Calcium paradox”). またCa 5mEq/L群では, 大動脈遮断中左室は異常収縮状態となり, 遮断解除後60分以上は生存しえず, これに対し, Ca 2mEq/L群では, 各種指標は良好に保たれ, Ca濃度は2mEq/Lが至適濃度であった. また無Ca液を用いて, 心筋温を28℃群と20℃群とを比較した場合, 前者で心筋障害が著明で, 後者で心機能・形態ともによく保存され, 低体温によって“Calcium paradox”は防止可能と考えられた.
Practice : 臨床医学:外科系
Keywords : chemical cardioplegia, cardioplegic solution, Ca濃度, Calcium paradox, 低体温
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