Abstract : |
開心術に伴うインスリン分泌抑制機序に関しては, 従来より種々検討されているが, いまだ統一的見解はなく, 近年, 低温の影響も重要な因子の1つとして注目されている. そこで今回は低体温下開心術につき, 低温の糖代謝に及ぼす影響をインスリン分泌調節に関与するカテコールアミン, グルカゴン, 成長ホルモンおよび糖質コルチコイドなどの変動より検討した. 対象は7ヵ月から8歳平均3歳の先天性心疾患児15例で, 岡村法によるエーテル麻酔のもとに, 水槽浸漬による表面冷却および表面加温を行った. 最低温は平均23℃, 血流遮断時間は平均37分である. 血糖は冷却中より著明に増加し, 一方, 血漿IRIおよびC-peptideは不変で外科的糖尿病状態を示した. ノルエピネフリンの変動を反映する血漿DBH活性は冷却とともに減少傾向を示し, 最低温で有意の低下を示した. 血漿IRGは冷却過程においては不変で, 加温過程で増加した. 一方, 血漿HGHは冷却時において明らかな増加を示した. 血漿コルチゾールは冷却中は不変で, その機序として副腎からのコルチゾール分泌の減少および肝におけるコルチゾール代謝率の低下が動物実験により確認された. また, これらのホルモン変動の総和を反映する血漿cyclic AMPは冷却過程では不変で, 加温時有意に増加した. すなわち, 冷却時に認められるインスリン分泌抑制には, 成長ホルモン以外のカテコールアミン, グルカゴンおよび糖質コルチコイドなどの所謂抗インスリン因子の関与は少なく, 低温に由来する膵内分泌機能の一時的低下が重要な役割を演じていると推測される. |