Abstract : |
重症筋無力症に対する胸腺摘出術は, 有効な治療法として積極的に実施されている. しかし, その成績は諸家の報告からみても明らかなように, ほぼ70~80%に限界があると思われる. この手術成績の限界には, 近年, 免疫学的は考察がなされているが, われわれは今回, 胎生期における異所性胸腺の検索という発生学的な面から検討を加えてみた. 本研究に利用した胎芽は200例, 胎児は58例である. 胎芽期の胸腺の発生をHorizonのSystemに分類して観察したところ, H-XXIIIのStageで胸腺はほぼそのPermanent Positionに達すると考えられた. 胎児期の症例では, 18例に頚部異所性胸腺組織がみられ, これは上皮小体との関係から, 第4咽頭嚢由来のものと, 第3咽頭嚢由来のものがあると推察できた. さらに, 胸腺の上極部の高さが, 甲状腺のレベルにとどまっている胎児期の下降障害例は16例であった. 臨床的に頚部異所性胸腺は左側に発見率が高い. これは, 第4咽頭嚢由来と考えられる胎児期の異所性胸腺が左に多いこと, 胸腺の左上極部の下降が遅れることにより説明された. 今回のわれわれの成績を直接的に, 重症筋無力症例にあてはめ, 手術成績を検討することは困難である. 今後さらに新生児から成人にいたるまで, 検索を続けていく必要があるが, 重症筋無力症の手術無効例のなかには, 異所性胸腺組織が残されている可能性はあると考えられる. |